幻のバターと芳醇なチーズを求めて、新潟県は佐渡島へ
世界農業遺産にも認定され、海の幸、大地の稔、森の恵みに満ちた新潟県の佐渡島。自称食いしん坊な手仕事案内人が見つけた、ニッチな旅の手土産を紹介。今回は、地元でも手に入りにくい幻のバターをピックアップ。 【写真】お土産にカマンベールやクリームチーズも
《BUY》「佐渡乳業直売所 みるく・ぽっと」 幻のバターと芳醇なチーズを求めて
手に入りにくいと聞くと、どうしても味わいたくなるのが人の心理というもの。「佐渡バターが美味しい」という噂を聞きつけたのは、いつの頃だっただろうか。都内では、めったにお目にかかれないが厳選された食材店で時折出合うと必ず手にする存在であった。 火付け役は、佐渡出身で、日本のチーズ文化に多大な貢献をされた「フェルミエ」の創業者・本間るみ子さん。有塩バターにはミネラル豊富な佐渡海洋深層水塩が使用され、塩分が控えめでありながらコクがある。いっぽう無塩バターはクセが無く、さっぱりと爽やかでありながら、ふくよかな風味が醸し出されている。 このバターを、佐渡取材の買い物リストの筆頭に置き、意気込んで直販所を訪れると、「猛暑の影響で牛乳が確保できず、今は品切れ」だという。撮影の約束を印籠のように掲げてお願いすると、奥から賞味期限間近な一点を取り出してくれた。それほどまでに、地元でも手にいれるのが困難な、バターのこだわりとはいかに?
佐渡乳業では現在、島内の7軒の酪農家の約120頭の乳牛からもたらされる3tの生乳を、牛乳をはじめ、バターやチーズなどの乳製品に加工している。絞ってから48時間以内の新鮮な生乳にこだわり、佐渡の自然の恵みによって作られるバターは、甘さと香りのバランスが絶妙である。 熟練の職人により一個ずつ木型で成形され、優しいミルクの風味に包まれるのだとか。佐渡バターをリピート買いする食通のなかにはパンには有塩バターを、そして熱々のご飯には無塩バターを閉じ込め、醤油を数滴まぜて食べるという方もいると聞く。
バターが購入できなかったため、ほかの商品へと目を向けるとバリエーション豊富なナチュラルチーズが目に入る。モッツァレラからゴーダ、カマンベールからクリームチーズまで。全国のチーズ工房がしのぎを削る「ALL JAPAN チーズコンテスト」での受賞経験もあるそうだ。 目に留まったのは、チーズと味噌の職人が本気で作ったという「チーズ 雪の花みそ漬け」。カマンベールはたまり味噌、ゴーダは白味噌、モッツァレラは吟醸味噌で漬けるなど、それぞれのチーズの風味を引き出す適切な味噌を選び抜いたという。 撮影後にカットした一欠片を食べた瞬間、口をついて出た言葉は「ワインなど、ありませんよね……」。残りの欠片をホテルへ持ち帰り、マリアージュを楽しんだことは語るに及ばず。素朴で優しい北国のチーズに心を満たされた宵どきとなった。 「佐渡乳業直売所 みるく・ぽっと」 住所:佐渡市中興122-1 電話:0259-63-3151 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。 BY TAKAKO KABASAWA