浅野忠信さん受賞スピーチが「カタカナ英語」でも世界から絶賛されたワケ【専門家が解説】
● 「外来語スピーチ」でも 人々を感動させたポイントは? まず、難しい英語は全く使っていません。単語も文法も、日本でいう中学生レベルです。というか、英語として単語を使っていないといってもいいでしょう。スピーチに出てくる単語は、外来語として日本語で使われている単語ばかりです。 また、発音についてもいわゆるカタカナ英語で、これもある意味、日本人らしいといっていいでしょう。総じて、「英語スピーチ」というより「外来語スピーチ」とすらいっても過言ではありません。 浅野さんは優秀な俳優ですから、英語のセリフとしてもっと完璧なスピーチをすることもできたでしょう。10年以上前からハリウッド映画に何作も出演しています。それに、今回の賞のノミネートは昨年12月に行われたもの。つまり、浅野さんは事前に準備して「英語スピーチ」もできたはずなのです。 しかし、あえてしなかったのでしょう。そして、今回の中学生レベルの外来語スピーチで浅野さんの気持ちは十分に伝わったと思います。 浅野さんは、アメリカ人風の自信満々な立ち振る舞いではなく、やや猫背な姿勢でした。発言内容も相まって、いわゆる日本人らしい謙虚な雰囲気でした。 一方で感情表現については「Wao」など感嘆符を使い、大きな声ではっきりゆっくり、堂々とカタカナ英語で発音しました。これも、現地の会場を沸かせたポイントの一つでしょう。
● 英語が完璧に話せるかどうかは 世界で活躍することには関係ない ここから先は筆者の想像に過ぎませんが、浅野さんはこのようなスピーチで伝えたかったことがあったのではないでしょうか? それは、「英語力とは関係なく、日本人俳優は世界で通用する、自信を持ってほしい」といったメッセージです。 そもそも『SHOGUN 将軍』は、米国で制作されたドラマですが、劇中のセリフの約7割が日本語です。それでも、「Disney+(ディズニープラス)」で世界配信され、英語をメーン言語としない人々も数多く視聴し、高い評価を受けました。 また、ゴールデン・グローブ賞の投票権を持つ人も、近年はアメリカ人に限らず多様化しているといわれています。そうした背景を踏まえると、俳優業は英語ができなければ世界では通用しないとか、英語ができるのが大前提というのは、やや時代遅れな気もします。 実際に今回の日本人俳優の授賞は、「英語が完璧に話せるかどうかは、俳優として世界で活躍することには関係ない」ことを証明して見せました。 浅野さんは受賞後のインタビューで(日本語で)、「今後の日本人俳優の世界での活躍を期待する」と語っています。また、真田さんも「SHOGUNが言葉の壁を壊した。大きな門がアジアの国々に開けた。その土壌に次からまた、クルーもキャストも橋を渡って来られる状況が作れた。可能性は大きく広がった」とコメントしています。 こうしたメッセージは、全ての日本人にとって意味があることだと思います。日本人の個々の能力は高く、世界に通用するものです。しかし、英語ができないがゆえに日本に閉じこもりがちです。 自分の専門分野や強みがあれば、自信を持って世界に出るべきです。出た後に英語をマスターして、さらに高みを目指せばいいのです。そうした意味でも、浅野さんも真田さんも全ての日本人のロールモデルとなり得るでしょう。 お二人は、ゴールデン・グローブ賞の授賞式から、日本に向けて共有したい「志」のようなものを訴えかけていたのかもしれません。少々大げさかもしれませんが、そうしたことを強く感じさせるスピーチでした。
三木雄信