最多勝エースが投げずに敗退したロッテの決断の是非
パ・リーグのクライマックスシリーズのファイナルステージは、ソフトバンクが千葉ロッテに無敗の3連勝(アドバンテージを含めて4勝)で決着をつけた。試合後、敗れたロッテの伊東監督は、「点差以上の力の差を感じたのが正直な感想。悔しくてしょうがない」と唇をかんだ。 第1戦は、先発に大嶺祐太(27)を立てたが、延長戦にもつれこみ 、2-3のサヨナラ敗戦。第2戦では、古谷拓哉(34)を9月21日以来となる先発に抜擢、健闘したが6回に崩れた。第3戦はファーストステージの第1戦に投げた石川歩(27)が中5日で先発したが、3回に3点を奪われ、ソフトバンクの強力投手陣の攻略に苦しんでいた打線が反撃できなかった。違和感を覚えるのは、ロッテが今季15勝9敗を記録した最多勝のエース、涌井秀章(29)を使わないまま、いや使えないまま“下克上”をかけた戦いを終えたことだ。 そもそもロッテがクライマックスシリーズでエースを軸に回せなかった理由は、涌井の最多勝タイトルと関係がある。15勝でシーズンを終えた日ハム、大谷翔平(21)を14勝で追っていた涌井は、10月6日の楽天との最終戦に先発して137球を要して延長10回を投げぬき、自身、6年ぶり3度目となるタイトルを手にした。だが、そのために10日開幕の日ハムとのファーストステージの第1戦には間に合わず、登板は中5日を空けての第3戦にまでずれこんだ。 伊東監督は、開幕前のメディアの会見で「涌井が最多勝のかかっていた最終戦で140球近い球数を投げた。『最終戦を回避してCSの初戦で』と話をしたのだが、涌井本人が『最多勝のチャンスなので投げさせて下さい』と言ってきた」と説明していたが、個人タイトルか、3位からの“下克上”かという葛藤の末、首脳陣は、涌井のシーズンを通じての貢献度を考慮、その強い意思を尊重した。 日ハムとのファーストステージでは、1勝1敗で迎えた12日の第3戦に先発、粘り強いピッチングで7回途中まで143球を投げる熱投で、チームにファイナルステージ進出の切符を呼び込んだ。だが、球数を考えると、最短でも中4日、17日の第4戦まで先発は無理になっていた。結局、最多勝をとらせるために投げさせたレギュラーシーズン最終戦の登板がCSの戦いに大きく影響したのだ。 個人タイトルか、それとも、チームの勝利か。優先すべきは、どちらなのかの議論になったが、千葉ロッテのOBである里崎智也氏は、厳しい見方をしている。 「最多勝を獲得した絶対エースが投げないままファイナルステージを終えることは考えられない。確かに個人タイトルは、後々まで残る大事なもので、その気持ちを大事にした首脳陣の考え方はわからないでもない。でもプロ野球は何を目標に戦うのかということ。個人成績ではなく優勝を目指すのでしょう。ただでさえ先発が不安なチーム。エースが、最大3試合を投げるローテーションを組めないと下克上のプランも組めない」 誤算もあった。本来ならば、最多勝を奪いにいっても、中4日で11日のファーストステージの第2戦、また中4日で、16日のファイナルステージの第3戦に先発ができる計画だったが、最多勝のゲームで137球も投げてしまったことで、すべてがオジャンになった。そこが首脳陣からすれば、せめてもの落としどころだったはずだったのだが、涌井の出番が来る前にゲームオーバーになった。