アイドルから演歌歌手へ転身の苦楽…長山洋子「二度と音楽界に戻れないのでは?と葛藤しつつも受け入れた」
その三味線を再開したきっかけは、当時の新宿コマ劇場などで行われた座長公演(歌手が大舞台である劇場で開くステージ)だったと言う。 「演歌に転身した時、まずは座長公演が目標でした。それが29才の時に実現したのですが、まだ演歌のオリジナル曲も揃っておらず、先輩方のカバー曲を歌っていたんです。そこで、さらに自分らしい芸も披露できないかと考え、津軽三味線をもう一度お稽古して、なんとかステージで津軽民謡を披露できるようになりました。 その立ち弾きのスタイルは、最初はみなさんに驚かれましたが、とても好評だったので、“自分の大きな武器になるから”と、続けることになったんです。でも、立ち弾きできる津軽民謡は限られているので、オリジナル曲を作ってもらおうということになり、『じょんから女節』が誕生したんですね」
本作は1年以上オリコンTOP200に入るロングヒットで累計売上は10万枚を超え、この後も「おんな炭坑節」、「嘘だといって(ニュー・バージョン)」、「博多山笠女節」(Spotify13位)、「じょっぱり よされ」(同12位)そして最新の「白神山地」(同14位)と、立ち弾きスタイルのシングル曲を5作以上リリースしてきた。それにしても、5キロほどの太棹の三味線を弾きながら歌うというのは、相当な集中力や体力が必要ではないだろうか。 「そうなんです! 最新のステージでは『じょんから女節』の7分近くあるスペシャル・バージョンと、新曲の『白神山地』の2曲を立ち弾きしていますが、実は年齢とともにキツくなっています(苦笑)。お客様の顔を見ながらパフォーマンスしている時は、まったく感じないのに、終わってから相当に息が乱れているなと気づきますね。さらに、演歌歌手の方はみなさんそうですが、1日2公演に、昼公演と夜公演の間の会場移動もあって、毎日が体力勝負です(笑)」
“力の抜け具合”が功を奏した「捨てられて」や「嘘だといって」はカラオケの定番曲に
演歌部門第2位は、シングルセールスが累計32万枚以上(オリコン調べ、セールスについては以下同じ)、有線リクエストも年間2位となり、数々の音楽賞を受賞した’95年の「捨てられて」。当時、“でもね”と照れつつも手で可愛くポーズをしながら歌うご婦人方が多く、歌謡曲調の親しみやすいメロディーや長山の軽やかな歌唱も好評で、カラオケの定番曲にもなった。 「『捨てられて』は、プロデューサーから、昭和40年代にいしだあゆみさんや伊東ゆかりさんが歌っていらした歌謡曲が私に合うんじゃないか、と言われたのがきっかけでリリースしました。でも、最初はシングル曲のつもりじゃなくて。レコーディングも、“さらっと歌ったほうがいいよ”と言われたので、力まずに歌いました。だから今聴くと、“なんて適当に歌っているんだろう”って、自分でもビックリします(笑)。でも、その力が抜けた感じが逆によかったんでしょうかね」 本人は“適当に歌った”と謙遜する「捨てられて」だが、演歌のジャンルでありつつ、長山ならではの可憐な歌声が曲全体を華やかにしている。演歌に転身した直後は、“元アイドルが演歌なんて……”と穿った批判もあっただろうが、むしろ“アイドルだったからこそ”、曲の聞きやすさがぐんと増しているように感じられる。 「確かに、思い返してみると、そうですね! 当時は、アイドルらしく歌おうなんてまったく思っていませんでしたが、アイドル時代の10年間で身についたものは、どうしても自然に出ますからね」 「捨てられて」のほかに、同じコンビ(作詞:鈴木紀代×作曲:桧原さとし)による作品「嘘だといって」が、演歌部門第6位にランクイン。同作は、’96年のシングル「ヨコハマ・シルエット」のカップリングだった頃から、長山本人も“なぜだか気になる歌でした”と注目していたそう。それが’05年にリカットされ、「捨てられて」と同様、カラオケ初心者にも親しまれそうな作品に仕上がっている。やはり、本作も長山の人気楽曲パターンと言えるだろう。 ちなみに、当時は安定してヒットを飛ばす香西かおり、伍代夏子、坂本冬美、長山洋子、藤あや子(以上、五十音順)の5人を“演歌女性5人衆”として、チャリティー・シングル「心の糸」を発表したり、特番が組まれたりしていた。長山は5人の中では、演歌キャリアこそ短いが、アイドル時代を含めた芸歴では最年長クラス。この場合、どちらが優先されるのだろう。 「この頃は、5人で集まることが多かったですね~。5人の中では、私が一番年下でしたし、演歌歌手としても一番の後輩だったので、みなさんをお姉さんのように慕っていましたよ。確かにアイドル時代を入れたら私が年長ですが、私の制作チームでは、“他の方々は5年、10年と積み上げてきて今があるけれど、洋子は演歌界ではペーペーなんだから、同じようにしていたら追いつかないぞ!”と諭されて、スタッフ一丸となってハイペースで頑張っていました」 そして、演歌部門第3位は、’23年の「美味しいお酒 飲めりゃいい」。シングル全69作がサブスク解禁になったタイミングでリリースされたことも好調の一因だろうが、若い世代にも聴かれそうなノリの良い演歌で、本人も同作の新曲発表会にて“ストレス解消ソング”と紹介していた。 「女性歌手仲間のみなさんは、だんだん飲まれなくなっていますが、私はプロフィールに書いちゃうくらいシャンパンが大好き! 日本酒も好きですし、先日も北陸地方でのお仕事が昼間までだったので、いただきました(笑)」 作曲を担当した水森英夫は、’94年の「蒼月(つき)」、’07年の「洋子の…新宿追分」についで3度目のシングル起用だが、高音が伸びる独特なメロディーが長山の滑らかなボーカルを引き出している。 「司会をつとめる番組『洋子の演歌一直線』(テレビ東京系)の収録で、1日に十何人分の楽曲を聴かせていただくのですが、台本には水森先生が作曲されたものがとても多くて、本当にすごいなと思いますね。先生にいただいた作品では、マイナー調の『洋子の…新宿追分』がとても好きです。先生には『蒼月』で、演歌の低音の響かせ方も教わりました。低音って、無理に出そうとしても出なくて、作品に出会って初めて出るんだと。『美味しいお酒 飲めりゃいい』では十数年ぶりにご一緒したのですが、“声が変わってないなぁ”って嬉しそうに言ってくださいました」