「三つの文化を生きたからこそ」映画界の”アウトサイダー”アン・リーが描く東西文化のマリアージュ【世界文化賞】(後編)
映画に必要なもの:うまくいかない人間関係と俳優
――あなたの作品は、異なる立場の人間の心理を描いているように見えますが、常に探求しているテーマはありますか? リーさん: 私は劇作家として、うまくいかない人間関係に興味があります。順風満帆の人生になんて興味は持てません。人間関係で衝突したり、心の中に葛藤が湧き上がると、人生は突然おもしろく転がり始めます。紆余曲折の人生や隠し事は興味の対象です。 人生は嘘で覆われています。しかし、その奥底には真実があり、時に隠そうとします。その深い部分に光を当てて真実に触れようとする。それが人間の関心事です。 人間関係には2つの要素があります。一つは、自由でひとりになりたいという欲求。もう一つは、お互いに離れられないという束縛です。この二分性から終わりのないドラマが生まれるのです。私たちは自由を求めつつも、お互いに必要なのです。 ――ストーリー、撮影、演技など、映画で最も重要なものは何ですか?これらすべての要素のバランスはどう取りますか? リーさん: 絶対に俳優です。あらゆる要素が俳優のために機能すると信じています。映画は登場人物の心の中にあるものをすべて視覚化すべきというのが私の哲学です。それは俳優が表現します。ですから、俳優が最も重要なものです。 クルー全員が俳優のために尽力しなくてはなりません。私はカメラマンであろうが、振付師であろうが、美術スタッフであろうが、現場を離れてもドラマの話をしてくれる人たちと働くことを好みます。 ――あなたの作品の出演俳優は、異口同音に「自分の監督スタイルを押しつけない」と話しています。俳優には即興を望みますか、それとも台本通りに演じてもらいますか? リー: 俳優に幅広い表現の機会を与えたいと考えています。リハーサル中はキャラクターや俳優同士の化学反応を磨き上げます。撮影中は、料理と同じように、レンジの中の食材が良いものであることを確認し、指示を出しながらも、テイクごとの微調整はあります。 リーさん: 私は俳優に様々な演出をすることが好きです。それが俳優にとって意味をなさなくても、混乱しても構いません。私は“可能性”を収集しているのです。もちろん撮影時間は限られているので、時間内にできる限り多く試してみます。 俳優は私の演出方法を分かった上で、テイクごとに新しい演技をしてくれます。私は編集の際に、その中からベストの演技を選び取るのです。俳優は基本的なことを理解して準備しておくことが重要で、その上で即興をしてくれればいいと思っています。