脚本、主題歌、キャスト全てがハマった… NHKドラマ『宙わたる教室』が視聴者に与えてくれたものとは? 最終話考察レビュー
物理準備室のドアが、学会発表の舞台の上に繋がっていた…。
いよいよ迎えた本番当日。藤竹に「好きな格好で」と言われた通り、岳人と佳純、アンジェラ(ガウ)はいつも通りの格好で、長嶺(イッセー尾形)はスーツに身を包んでやって来た。制服姿の生徒が多い会場では、4人の姿は異質だ。 だけど、それに引け目を感じず堂々と立っていられるのは、ここまでの経験が力になっているからこそ。 壇上に現れた岳人と佳純から、緊張感が伝わってくる。司会から学校名を読み上げられ、「定時制」に会場内はざわついていた。しかし、臆することなく岳人は「教室に火星をつくることに成功しました」と話し出し、空気を掌握した。 堂々としてはいるが、いつもより少し上ずったような岳人の声色に、思わず、頑張れ…!と祈ってしまった。 まるでバトンのように岳人から佳純に話者が引き継がれ、重力可変装置から火星の土の再現の話に。木内に言われた通り、佳純はしっかりと声を張り、前を向いて話す。みるみる聴衆の耳目を惹きつける2人がなんとも頼もしかった。 発表も終盤、岳人が急に黙る。なにかを追いかけているような表情に見えたが、このとき、岳人は「終わりたくない」と思ったと語る。藤竹が誘った物理準備室のドアが、学会発表の舞台の上に繋がっているなんて、誰が想像しただろうか。
全てがピタリとハマっていた傑作
もともとは藤竹が“実験”のためにはじめた定時制高校の科学部。最初は藤竹が「諦めたものを取り戻す場所」と部員たちを“その気”にさせて突き動かしてきたが、いつしか藤竹自身も彼らに励まされるようになっていた。そして、“その気”の先で、学会での口頭発表のみならず、優秀賞まで受賞した。 しかし、歓喜に湧く部員たちのなかで、佳純だけは悔しさに涙を滲ませていた。「最優秀賞が欲しかった」と言う佳純に対し、長嶺たちは「また来年だな」と笑顔を浮かべる。 人の探求心は尽きない。岳人もまた、壇上で「これからやりたいことがいっぱいある」と語っていた。藤竹が与えた“その気”が、それぞれに芽吹き、ぐんぐん育っている証拠だろう。 そして、藤竹自身にも魅力的な誘いがきていた。学会発表を控える大事な時期に、時折物思いにふける様子を、岳人だけは見逃さなかった。そして、帰り道に「迷ってんなら気にすんな。ワクワクは止められない」と声をかける。 教師と生徒というよりは、まるで同じ道をともに歩んできた同士のよう。握手を交わす2人の関係性が、このままずっと変わらずにいることを願いたい。 これにて、多くの人を魅了した『宙わたる教室』が完結した。練られた脚本、力強い主題歌。窪田正孝にイッセー尾形という技巧派が屋台骨となり、それを温かく包み込むガウの空気、小林虎之介や伊東蒼といった実力派若手俳優の熱演…すべてがピタリとハマっていた。 「諦めたものを取り戻す場所」という藤竹の言葉に勇気づけられ、その気になれば変わっていける岳人たちの姿に背中を押された人も多かったはず。ままならない世の中に、ピュアな原動力を与えてくれる作品だったと言えるだろう。 【著者プロフィール:あまのさき】 アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。
あまのさき