「ベースを投げるか、スパイクを脱ぐか…」プロ野球審判員が34年間で見た「抗議パフォーマンスが面白すぎた」監督とは?
● 「ベース投げTシャツ」 「ベース投げコンテスト」 せっかく観戦に来てくれているお客様を待たせる「遅延行為」があっても退場処分にしなかったら、今度は審判員の責任(セントラル野球連盟から「注意処分」「厳重注意」「罰金」など)になってしまうのです。後日、私は「あなたがルールの5分を守ってください」と口頭で「注意」を受けました。 さて、球団の通訳の伝え方も、審判員の心象に色濃く影響します。 審判員サイドも研修留学を通して、英語をある程度、理解できる人が増えてきました。 (外国人監督、外国人選手はそんなに厳しい言葉を使ってないよ。そんなふうに訳したら、そちらの不利になるだけなのに……) 正直、そう感じることもたびたびあります。 ブラウン監督はどこかのマスコミのインタビューにこう話していました。 「審判員に抗議する選手を守るため、私が代わりに抗議して退場になればいい」 広島監督4年間(2006年5位、2007年5位、2008年4位、2009年5位)で8度退場、その試合の戦績は7勝1敗。微妙な判定に端を発する抗議ですが、もちろんチームの士気を鼓舞する意図も含まれていたのでしょう。 広島球団もさるもので「ベース投げTシャツ」をグッズとして販売したり、「ベース投げコンテスト」を開催していたそうです。
楽天監督時代の2010年(6位)は、退場4度で2勝2敗でした。退場計12度は、タフィ・ローズ選手(近鉄ほか)14度に次ぐものです。 ● 「瞬間湯沸かし器」を自称する 近藤貞雄監督の粋な素顔 かつて「瞬間湯沸かし器」を自称していた近藤貞雄監督(中日、横浜大洋ほか)は、「日本のビリー・マーチン(ヤンキースほか監督)」の異名もありました。特に柏木敏夫審判員(1931年生まれ、審判員歴通算31年、3044試合出場)に対して、両腕を体の後ろ側で組んで、胸をぶつけて抗議しました。柏木審判員も近藤監督を退場させたことがあります。「抗議、退場」の2人の仲は、有名でした。 しかし実際は、柏木審判員は近藤監督を尊敬していましたし、日本ハム監督に就任した近藤監督に「お前もパ・リーグに来て一緒に盛り上げないか」と誘われたそうです。 私も自分が若いころならブラウン監督のパフォーマンスに対して「何をやっているんだ!」と態度を硬化させたでしょう。しかし、当時の私は審判員30年のキャリアを重ねて多少なりとも余裕が生まれていましたので、ブラウン監督のパフォーマンスに“対応”できたというわけです。
井野 修