「ベースを投げるか、スパイクを脱ぐか…」プロ野球審判員が34年間で見た「抗議パフォーマンスが面白すぎた」監督とは?
いつもはヨレヨレのジーンズ(失礼……)で取材するプロ野球記者が、ペナントレース開幕戦(と日本シリーズ)だけはスーツとネクタイを着用して見違えるようです。 厳粛な雰囲気の中で、できれば揉め事を起こしたくありません。その一方で、2003年にセ・リーグ審判部長に就任した私は、何かあったら毅然とした態度で臨まなければ、他の審判員に示しがつかないという熱い気持ちもありました。セ・リーグ開幕戦での退場劇は初のことだったのです。 それだけに、セ・リーグ事務所に提出する「報告書」は、所定のA4用紙の各項目にビッシリと詳細に書き込みました。何月何日、どの球場、対戦カード、試合結果、状況説明。退場させた選手が攻撃的な態度を取ったか、いかなる理由において退場をさせたのか。さらに対応した審判員はどのように感じたのか、責任審判の所感etc.。 このように退場処分があったとき、当該球団(この場合、阪神)から「質問書」「申請書」「要望書」「抗議文」等がセ・リーグ事務所に届きます。審判員の報告書をもとにセ・リーグ事務所が対応するというわけです。 ● “常連”ブラウン監督の 楽しみなパフォーマンス 「今回はベースを引っこ抜いて投げるのかな、スパイクを脱ぐのかな」 審判員の立場で不謹慎ですが、マーティ・ブラウン監督(広島ほか)に関しては内心、抗議されるのが面白くて、私にとって数少なかった広島遠征が楽しみで仕方ありませんでした。
ブラウン監督は現役時代の1992年~1994年に広島に在籍し、特に1993年は120試合118安打、打率.276、27本塁打83打点と活躍したのを私もよく覚えています。 広島時代のブラウン監督の退場8度の理由は「審判員への暴言」5度、「審判員への侮辱行為」1度、「遅延行為」2度。しかも、8度中6度が本拠地・広島。つまり“計算ずく”だったと思っています。 「どうせ退場になるのなら、お客さんを楽しませよう!」 ブラウン監督はプロスポーツとしてのショーマンシップを心得ていました。立派なエンターティナーです。 ストップウオッチを片手にダグアウトを飛び出してきたのが何度かあったのも、「遅延行為による退場処分の目安の5分」を計るためだったのは想像に難くありません。 クルーチーフだった私が退場させたのは2006年7月29日の横浜戦(広島市民球場)。 「Oh、通訳が入るから、2倍かかる。10分にしてくれないか」 「あなたの言うことは分からないでもないが……(頭いいなあ、笑)」 抗議パフォーマンスが面白くて思わず見入ってしまい、気づいたら17分が経過していました。他の審判員が「井野さん、そろそろ退場させないと……」。理由はもちろん「遅延行為」です。