「履歴書書くのがつらい…」 「欠勤連絡したら怒られて…」 働きたくても働けない葛藤抱えた人がたくさんいるのに…精神科医が問う「会社の常識」
職場に戻るとうまくいかない人も
他の人と自分を比べない、職場に自身の発達特性を把握してもらう―といった対応をリワークで身に付け復職を果たす患者は多い。一方で、リワークの場では安定していても、いざ職場に戻るとうまくいかない患者も少なくない。復職後に工場で働いた男性は、同僚の「もう少し早く」という一言で、自分を責め出勤できなくなった。職場でのコミュニケーションがうまくいかずに離職し、ひきこもるようになった人もいる。福家さんは「働きたいけれど働けないという葛藤を抱えた人がたくさんいる」と説明する。
人間関係や慣習がネックになる人が多い
福家さんが長年、臨床の場で感じたのは「人間関係や職場の慣習がネックになって力が発揮できない人が多い」ということだ。ネックになる要素を明確にし、本人の努力以上の事が必要なら職場の環境を変えればうまくいくのではないか―。そんな思いが行動の原点となっている。
「リスクが大きい」断れることも
「(患者は)どんなことならできるんですか」「うちは障害者雇用率を満たしています」―。イチの実現に向け協力を求めようと、福家さんが県内の企業を訪ねた際に返ってきた答えだ。イチに理解を示しつつ「リスクが大きい」と断られることもあった。
会社の前提は「精神疾患などがある人は、ちゃんと仕事ができない」
企業訪問での話し合いは、既存の障害者雇用率制度や福祉的就労があればいいのではないか―といった会話にとどまることが多いという。福家さんは、それらの制度の重要性を理解しつつ、さらに働きやすい仕組みの導入で、発達障害などがあってもなくても一緒に働ける状況になればと願う。しかし感じているのは、「精神疾患などがある人は、ちゃんと仕事ができない―という会社側の前提」だ。
「会社の当たり前」見つめ直して
昨年公表された内閣府調査によると全国の15~64歳で、ひきこもり状態にある人は推計146万人。精神疾患の患者数もうつ病などを中心に増加傾向にあり、仕事関連が原因とみられるケースも少なくない。福家さんは「会社の“当たり前”を見つめ直すのは、いまや社会の課題ではないか」と訴える。
今年3月から5社を回っているが、まだ協力を得られる会社は見つからず壁の高さを実感している。ただ福家さんには多くの患者と向き合ってきたという自信がある。「工夫すれば会社の力になると信じている。だから、何年かかっても実現させたい」