平成・令和の刑事ドラマは「『踊る大捜査線』の影響を受けすぎ」? 「踊る」の新作公開&過去作一挙放送が指し示す、刑事ドラマの悲喜こもごも
そもそも物語の舞台は本庁の捜査一課などではなく所轄の湾岸署。各エピソードは事件の解決に青島を取り巻く警察の人間関係を絡める形で描かれました。 その人間関係のリアリティと面白さは君塚さんが丁寧に現場取材をしたことの表れであり、しかも青島が元営業マンであることも含め、視聴者が自分に置き換えて見やすいものだったのです。 視聴者は放送が進むたびに「この刑事ドラマはひと味違う」と気づき、青島たちに感情移入しはじめる人が続出。本庁と所轄の格差は、一般企業の本店と支店、主要部署とその他の部署などに置き換えられ、それぞれの刑事が会社員と同じような気持ちで働いていることが伝わり、共感を集めていきました。
■「相棒」シリーズとの明確な違い ここまでの話を整理すると、君塚さんが「舞台、主人公のキャラクター、事件解決の流れなどをそれまで放送されてきた刑事ドラマとは異なるものにした」こと。 しかも、それが奇抜なものではなく、リアリティを感じさせ、自分に置き換えて感情移入しやすいものだったこと。これらが数ある刑事ドラマの中で「踊る」を国民的ヒット作にした理由の1つでしょう。 さらに君塚さんは、「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)などをはじめとする刑事ドラマでよく見られた、刑事の呼び名、カーチェイス、銃撃戦、犯人に情けをかけるなどの定番シーンをことごとく排除。
言い方を変えると、定番を避けるだけでリアリティにつながり、大きな差別化ができるほど、「踊る」放送前の刑事ドラマは偏っていたのです。 君塚さんはそのように刑事ドラマの定番を避けてリアリティを優先させたうえで、ドラマらしいエンタメ要素をプラス。 それは「所轄のノンキャリア・青島と本庁のキャリア・室井慎次(柳葉敏郎)が立場の差を超えた絆を育んでいく」「事件を通して感情をぶつけ合いながら、同じ理想の警察を求めてバディのようになっていく」という、視聴者に「警察はこうあってほしい」と感じさせる熱い関係性でした。