台湾の嘉義農林学校野球部の実話を基にしたミュージカル「KANO」（坊っちゃん劇場提供）

96歳の蔡清輝さんは、かくしゃくとしていた。昭和6年、夏の甲子園大会で台湾代表の嘉義農林学校（嘉農）を準優勝に導いた近藤兵太郎監督が、終戦間際に嘉農野球部で指導した教え子。嘉農を題材にした「坊っちゃん劇場」（愛媛県）のミュージカル「KANO」の台湾公演を観劇されると聞き、南部の嘉義まで足を延ばした。 公演前、ロビーに現れた蔡さんは「取材は中国語でも日本語でも、英語でもいいですよ」と笑った。厳しい練習で知られる近藤監督の日台の教え子は、90歳前後でも元気な方が多い。 ミュージカルには想像以上に心を動かされた。考え方も生活基盤も異なる台湾の先住民と漢民族、日本人の混成チームが、互いに支え合い、共通の目標に向かう物語。作品自体が良質なうえ、台湾人観客の反応がとにかく熱い。嘉農が勝利する場面では、まるで現実のように拍手と歓声がわくといった具合だ。 終幕でスタンディングオベーションが起こり、「素晴らしい」「とっても感動した」との声が聞かれた。 近藤監督の熱意が生んだ物語は、90年の時を超えて日台の絆を強めている。 来年は戦後80年。嘉農野球部に入ったものの、戦況の悪化で野球ができなくなってしまった蔡さんに、近くじっくり話を伺うつもりだ。（西見由章）