“バンドアニメ”の歴史と発展を辿る “キャラの実在感”を強めたメディアミックスの魅力
2024年の夏は、バンドを題材にしたアニメで盛り上がった。 『ガールズバンドクライ』(以下、『ガルクラ』)に『夜のクラゲは泳げない』、『ささやくように恋を唄う』といったテレビアニメの他、映画館では『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:Re: :』(以下、『ぼざろ』)が上映中だ。 【写真】『ぼっち・ざ・ろっく!』場面カット(複数あり) いずれもガールズバンドを描いたアニメだが、2010年代前後の『けいおん!』と『Angel Beats!』、2010年代半ばから始まった『バンドリ!』シリーズなどを経て、また再び盛り上がりを見せているガールズバンドアニメ。バンドに限らずアイドルものなども含めれば、音楽を作品の中核に据えたアニメ作品は大量に制作されている。 これは、日本のアニメがメディアミックスを事業モデルの基本とするからだが、このモデルでビジネスを開始してからそれなりの歴史を経て、これが単なるビジネスモデルではなく、一つの映像と音楽のコラボレーションによる表現として成長しているのが伺える。 そんなアニメと音楽のメディアミックスの魅力がどこにあって、どう発展してきたのかを振り返ってみたい。 ●音楽アニメの歴史概略 「音楽を題材にしたアニメ」の歴史は深い。テレビアニメで最初のアイドルものと言われるのは、1971年の虫プロダクション制作の『さすらいの太陽』だ。裕福な家庭と貧しい家庭の赤ん坊が入れ替えられ、2人はともに歌手を目指す。金持ちの家で育った娘は財力でのし上がり、貧しい家庭で育った娘はギター一本を持って、流れの歌手として酒場を渡り歩く。この作品では、藤山ジュンコなどの歌手がキャストに起用され、作中でキャラクターが歌う楽曲がリリースされるといった、今の音楽アニメにも通じるメディアミックスをすでに行っている(※1)。 この流れで大きな成功を最初に掴んだのは、『超時空要塞マクロス』のヒロイン、リン・ミンメイの存在とそれを演じた飯島真理だろう。劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の主題歌「愛・おぼえていますか」は、オリコンチャートのトップテンにランクインするなど、注目された。 歌とアニメという点で『マクロス』シリーズは特別な成功を収めてきたシリーズで、1990年代には『マクロス7』の劇中に登場するバンド「Fire Bomber」がリアルでもCDをリリースし、ライブ活動も行うなどバンドとアニメのカップリングで人気を博した。 この頃からメディアミックス戦略が業界全体に普及し、90年代後半には声優ユニット「ヴァイスクロイツ」がドラマCD、漫画、アニメなどで横断的に活動する存在として登場。ユニット活動と作品展開を両軸として活動し、声優自身が音楽活動を軸にするメディアミックス企画の先駆けとなった。 同時期に、バンドものでもユニークな試みが登場する。新條まゆのマンガを原作にした『KAIKANフレーズ』(1999年)では、劇中のバンド、Λucifer(リュシフェル)を実際にデビューさせる試みを行っている。キャラクターと同じ名前でバンドメンバーが活動するというもので、架空のバンドを現実でも展開していった。その後も、『BECK』や『NANA』などバンドを題材にしたマンガを原作にしたアニメが制作されており、近年でも『ギヴン』などがある。 こうした流れに「美少女アニメ×バンド」でガールズバンドものを持ち込んだのは、かきふらい原作、山田尚子監督の『けいおん!』だろう。本作は社会現象と呼ばれるほどのヒットを記録し、実際にバンドを始める女子校生を多く生んだとして、現実にも大きな影響を与えた。本作は、劇中のキャラクターを演じる声優自身に楽器演奏までさせてリアルな活動をしたという点で、これまで以上に一歩踏み込んだ形で、アニメと現実の音楽展開をリンクさせた作品で、以降のバンドものアニメのみならず、アイドルものなど多くの音楽アニメに与えた影響は大きい。 この頃には、いわゆる声優アーティストと呼ばれる、歌って踊れる声優の存在が普及していたこともあり、その人気も高まっていたことから、声優のアーティスト化、アイドル化の促進と相まって多くのメディアミックス企画が作られていった。『バンドリ!』『ぼざろ』『ガルクラ』なども基本的にこの流れにある作品と言える。