香酸柑橘の楽しみ方/歯学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<28> すだちやゆず、かぼすといった、果汁の酸味や果皮の香りを薬味として楽しむかんきつ類を「香酸柑橘(こうさんかんきつ)」と呼ぶそうです。日本に30種類以上あるともいわれ、私は出張先などで珍しい品種を見つけるとつい買ってしまいます。焼き魚などに合わせても絶品ですし、冷凍保存しておけば果皮ごと卸して使えます。無糖炭酸水やお酒に絞って入れるだけで季節を感じられるひとときが味わえるので、とてもお薦めの果物です。ただ気をつけなければならないのは、飲み物にこうした果汁を絞ると酸性度が高まるという点です。 酸性の飲食物が歯を溶かすというイメージが定着しているせいか、患者さんからよく「炭酸水は歯に悪いのか」という質問を受けることがあります。炭酸水は水と二酸化炭素という非常にシンプルな原材料から作られており、無糖であればpHは5程度で弱酸性、リスクはほぼないと考えてよいでしょう。果汁を加えたら酸性度が上がるので黄色信号、砂糖が添加された、いわゆる「炭酸ジュース」の類いはpHが2~3程度の商品が多く、赤信号です。 酸によって歯が溶かされる「酸蝕症」のリスクは、飲料のpHと残留飲料が唾液によって中和されるまでの時間(緩衝能)に関係します。極端な話、緩衝能が抜群に高い人の場合は、炭酸ジュースを頻繁に摂取したとしてもノーダメージということもあり得ますし、その逆もしかりです。自分の緩衝能はどの程度なのか、心配な方は歯科医院で調べてみてもよいかと思います。 乳歯、あるいは永久歯が未成熟な若年層の場合、成人と比べて歯が溶けるpHが異なります。弱酸性の飲み物でも脱灰につながるので、時間を置かずに水でゆすいで中和させるのが確実です。大人世代で歯ぐきが下がっている場合は同じリスクで根元が溶けます。豆知識で歯を守りながら、秋の味覚を楽しんでください。