『ドラッグストア・カウボーイ』のレザーのハーフジャケット。 【アノ映画のファッションに憧れて。Vol.56】
ガス・ヴァン・サント監督が初期に放った『マラノーチェ』(1985年)、『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)、『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)はすべてアメリカ、オレゴン州のポートランドが舞台であることから”ポートランド3部作”と呼ばれている。さて、今回はその中から『ドラッグストア・カウボーイ』のファッションチェックだ。 主人公たちはポートランドでドラッグストアや病院の薬局を襲っては麻薬を手に入れ、それらを摂取して薬に溺れて暮らしている。4人組の中でリーダー的存在なのが、マット・ディロン演じるボブだ。ボブを筆頭に、ケリー・リンチ扮する妻のダイアン、手下のリック、そして、まだデビュー間もないヘザー・グラハムが演じるナディーンは、全員、”ヘロイン・シック”と呼ばれる1990年代に流行ったトレンドルックで登場する。薬のせいで青白くなった肌と、少なくとも映画で見る限りはそんな顔とは裏腹なエッジィで見栄えのいいファッションに身を包んでいる。まあ、そうでなくては絵にならないのだが。 マット・ディロンと言えば、その前の『ランブルフィッシュ』(1983年)のライダースジャケット姿が印象的だったが、『ドラッグストア~』はさらにアップデートして同じ皮でもテイラードのハーフジャケットをラフに羽織ってジャンキーなアウトサイダーを演じている。物語の前半では、素肌にVネックセーター、それにチェックのスラックスを合わせたり、ヘソが覗くショートTの上にいきなりトレンチコート、そして、チェックのスラックスという、なかなかのコーデを披露しているマット。思えば、1980年代から90年代にかけて、ハリウッドのメンズファッションをリードしていたのはマット・ディロンだったのだ。 目利きの中には、劇中で彼が履くビットモカシンを買い求めるべく、〈グッチ〉に走った人がいたとか。レザーのハーフジャケットを乱暴に羽織り、足元はビットモカシンで決めるなんて、いったいどんだけおしゃれなんだ?! 物語の後半、薬を求めてさすらう生活に嫌気が差したボブは故郷のポートランドに戻り、更生を誓う。しかし、そんな時の彼には飛びまくったファッショニスタのイメージはない。もしかして、ガス・ヴァン・サントは服で主人公の変化を表現したかったのだろうか? 『ドラッグストア・カウボーイ』 製作年/1989年 原作/ジェームズ・フォーグル 監督/ガス・ヴァン・サント 出演/マット・ディロン、ヘザー・グラハム、ケリー・リンチ
文=清藤秀人 text : Hideto Kiyoto