子どもが自ら学び出す「自由進度学習」の可能性 そのプロセスが「探究的な学びの入り口」になる
個別最適な学びが求められている理由
2021年の中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」で示された「個別最適な学び」と「協働的な学び」。その個別最適な学びを実現する手段として、自由進度学習が注目を集めている。一斉授業が主流の公教育の現場で自由進度学習に取り組むには、まだハードルが高いこともあるかもしれないが、そこにはさまざまなヒントがありそうだ。教育ジャーナリストの中曽根陽子氏が取材した。 【写真を見る】小1年から中3までの学習内容を一通り学ぶことができる「eboard」 自由進度学習という言葉をご存じでしょうか。これは、その名のとおり、授業の進度を学習者が自分で自由に決められる自己調整学習の1つの手法です。 一般的な学校の授業は、学ぶ内容もペースも一律に決められており、理解ができなくてもどんどん進んでいくし、反対に理解が早い子もすでにわかっている子も静かに先生の話を聞いていなくてはなりません。「平均に合わせた結果、誰にもあっていない授業になっている」とも言われます。 一方、自由進度学習は、教科書の内容をそれぞれの子どものペースで学習していくので、1時間で6時間分の学習を進めることもできれば、3時間分の学習を6時間かけてわかるまで繰り返し学ぶこともできます。 一斉授業が中心の公教育では、なかなか馴染みにくいと思われるかもしれませんが、実は、「既にいくつかの地方自治体や学校においては、教育課程の時程上の工夫を行い学校に裁量の余地のある時間を生み出したり、いわゆる単元内自由進度学習を取り入れたりする中で子供が自らの興味・関心等に応じて主体的に学ぶことができる時間を設ける取組が行われているほか、午前と午後といった区切りで学びのスタイルを変え、子供の実態にあった教育活動を実践する取組も行われるなど、様々な創意工夫ある実践が生み出されてきている」(文部科学省「子供たちが主体的に学べる多様な学びの実現に向けた検討タスクフォース 論点整理より」)のです。 文科省は、時代の変化に合わせて必要な資質を育むためにも、ICTを最大限活用し、これまで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、カリキュラム・マネジメントの取り組みをいっそう進めると言っています。 「個別最適な学び」とは、特別な支援が必要な子どもたちも含め、一人ひとりの理解状況や能力、適性に合わせて個別に最適化された学びを行うことを指す言葉ですが、自由進度学習は、これを実現するうえで注目すべき一つの手法と言ってもいいでしょう。 この言葉が注目されるきっかけになったのは、新型コロナによる一斉休校でした。子どもたちの学びを止めないために、それ以前からあったGIGAスクール構想が一気に進み、1人1台の情報端末が配られ、ICTを活用した「個別最適化学習」が可能になりました。それに伴って、さまざまなICT教材や学習システム、教育クラウドが学校現場でも用いられるようになってきています。 教員の過重労働や教員不足が問題になっている中で、個別に最適化された学びを実現するためには、ICTの活用は欠かせません。ただ、教育現場でICTを効果的に活用するには、教員の役割も重要です。 そこで今回は、ICT教材の1つ「eboard」を生み出したNPO法人eboard代表理事の中村孝一氏と、自由進度学習を公教育の現場でも実践してきたHILLOCK初等部の蓑手章吾氏に話を聞きました。