子どもが自ら学び出す「自由進度学習」の可能性 そのプロセスが「探究的な学びの入り口」になる
「いつでも、どこでも、誰でも、無料で」学びを支えるICT教材
eboardは、「誰でも、どんな環境にあっても学ぶことをあきらめてほしくない」という思いから、中村さんが脱サラして2013年に立ち上げたNPO法人eboardが開発・運営する学習教材です。 日本におけるオンラインの映像授業の先駆けで、現在1万1000校以上で使われ、毎月20万~30万人が利用しており、公立学校や個人は、無料で利用することができます。小中学校の学習指導要領に沿って作られており、小学1年生から中学3年生まで(現在高校分野も作成中)の学習内容が一通りカバーされています。 その特徴は、ネット環境があればどの端末からでもすぐに使えること。学び方や認知に凸凹がある子にも配慮した学習画面であること。一本平均7~8分と短く、内容に集中できる講師の顔が見えないスタイルであること。字幕をつけていて、わかりやすいことなどが挙げられます。 実際公開されている動画を視聴すると、学校や塾の授業よりも、くだけた口調で親しみやすく、1つひとつていねいに解説されていました。学年や進度による制限がなく、どの学年の単元も好きな順序で学習できるのも特徴です。 ICT教材の中には、AIを活用して、受講者の学習状況に合わせて、自動的に次の問題を出してくるリコメンド機能を備えているものもありますが、eboardではあえてつけていません。 その理由を、「学びをあきらめないということが、われわれが大切にしているコンセプトですが、それは自ら学ぶ力があるという状態を指しています。逆にどんなに偏差値が高くても、人から言われないとできないなら、学習の能力としては低い状態です。自分からつかみにいくとか、自分のモチベーションをコントロールすることが大事なので、自由度を高くして、学習者がやりたいことをやりたい時にやれるようにしているのです」と中村さんは話します。
自由進度学習は「子ども自身がやることを決めること」が大事
以前、公立小学校でeboardを導入し、現在はオルタナティブスクール、HILLOCK初等部の自由進度学習の時間に使用している蓑手さんは、「eboardを使うことで、大人も子どもも学び方の概念が変わる」といいます。どういうことでしょう。 HILLOCKでも、最初は「習っていないからできない」とか、「難しいものはやらない」という子は多いそうですが、「習っていないことを獲得するために学ぶのだし、評価されるために勉強するのではない」ということを伝えていくうちに、学びに向かう姿勢が変わっていき、できないことにも失敗を恐れずどんどん挑戦をするようになるのだとか。 これは、「自分はやればできる!」と思うグロースマインドセット※になったということなのでしょう。自由進度学習を進めるうえでは、こうした指導者の姿勢がとても大切なのです。 HILLOCKでは、子どもたちが自分で目当てを決めて、そこに向かって何をするかを自分で選びます。わかるところはスキップして先に進んでもいいし、大事だと思ったら戻ってもいい。さらに、映像授業とデジタルドリルを組み合わせ、授業で学んだことをどれだけ理解したかを確認しながら進めていくこともできる。 子どもたちが失敗を恐れずに挑戦していくことができる仕組みが、eboardの中にはあるようです。 「自分はいつでも、どこでも好きなタイミングで学習ができる自由度が好きでeboardを使っています。私自身はいつまでにこれだけをやらなければならないとは考えていませんが、自由進度学習を進めるうえでも、学習指導要領の範囲がコンテンツとしてそろっているので、それが保護者にとっても安心感につながっている」と蓑手さん。 アカウントを取ればそれぞれの学習記録が残り、誰がどこをどのくらいの時間をかけて進めているかを把握することもできます。 ※グロースマインドセットとは、「自分の才能や能力は、経験や努力によって向上できる」という考え方のこと。反対に「自分の才能や能力は、努力をしても向上しない」という固定的な考え方をフィックスマインドセットという。アメリカ、スタンフォード大学のキャロルデュエック教授の研究によって能力に対する考え方が行動に影響することがわかっている