空から降ってくる「地球外物質X」…素粒子とはいったい何者なのか
物理学史上、最も独創的な装置
ウィルソンの霧箱は、物理学の歴史を通じて最も独創的な装置といわれています。それは、この装置により数々の重要な発見がなされたからです。 まず1つは、アメリカの物理学者カール・デイヴィッド・アンダーソン博士による陽電子の発見です。陽電子とは電気的な性質だけが反対になっている電子のことです。電子はマイナスの電気をもっているので、陽電子はプラスの電気をもっています。それ以外の性質は電子とまったく同じという、変わった粒子でした。プラスの電気をもつ陽電子の存在は1928年にイギリスの物理学者ポール・ディラック博士が予測していたのですが、アンダーソン博士が1932年に発見するまでは、本当に存在するとはあまり信じられていませんでした。地球上では発生してもすぐに消えてしまうので、誰も気付かなかったのです。 ところが、当時27歳のアンダーソン博士が霧箱を使って陽電子の飛跡の写真を発表したことで物理学の常識が書き換わり、世界の物理学者の間で大騒ぎになりました。アンダーソン博士は、霧箱を使って撮影したこの1枚の写真のおかげで、1936年にノーベル物理学賞を受賞しました。そしてまた、陽電子の存在を理論的に予測したディラック博士自身はアンダーソン博士が陽電子を発見した翌年の1933年にノーベル物理学賞を受賞しています。 図「アンダーソン博士が霧箱を使って撮影した陽電子の飛跡」はアンダーソン博士が論文に発表した、霧箱を使って陽電子を発見したときの写真です。 アンダーソン博士は霧箱の中央に6ミリメートルの鉛の板を置きました。霧箱が捉えた陽電子の飛跡は、左下から左上に伸びる髪の毛のような細い線です。霧箱全体が磁場の中に入れられているので、荷電粒子の飛跡は曲げられます。鉛の板を通過した後は荷電粒子は勢いを落とすので、曲がり具合が大きくなります。この写真では、荷電粒子が左下から入って左上に抜けたことがわかるのです。 記録された荷電粒子の飛ぶ向きが判明したので、磁場情報からこの荷電粒子はプラスの電気をもつことが判明しました。また、撮影された荷電粒子が形成した飛跡の密度から電荷の大きさがわかり、電子のもつ電荷の絶対値に一致したのです。