ベネッセ「個人情報漏洩事件」から学ぶ“真の教訓”とは? 自社の改善に活かす「事例研究」4つのポイント
いかなる企業も、いまやコンプライアンスを遵守することは“世界標準”。そう認識していながら、日本ではいまだ古い価値観を振りかざし、組織や会社を貶める愚行を働く企業人が絶滅することはない。 本記事では、現場でそうした数々の愚行を目にしてきた危機管理・人材育成の4人のプロフェッショナルが、事例を交えながら問題行動を指摘し、警告する。 今回は、経営コンサルタント・産業カウンセラーでマネジメント教育の講師も務める組織運営のプロ・角渕渉氏が、他社の不祥事事例の研究を有益にするためのスタンスを指南する。
失敗事例の研究が大切な理由
プロ野球名監督の故野村克也氏は、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。」という名言を残した。 企業不祥事はまさに負け事例であり、失敗事例である。失敗からは多くのことを学ばなければならないが、コンプライアンス問題に関しては自社の失敗からは学びたくない。ことの性質上、自社の失敗から何かを学べたとしても、それを活かす機会が自社に与えられるかどうか、保証の限りではないからだ。 よってコンプライアンス経営ではひと様の失敗から学ばせていただくこと、すなわち事例研究が大切になる。
事例研究を無意味にしてしまう悪しきスタンス
コンプライアンス研修の打ち合わせで、「理屈はいいから、事例の話を聞かせてください。」というご要望をいただくことがある。理屈の話は退屈なので事例で興味を持たせ、受講者を眠らせないでほしいということだが、問題はそのやり方だ。 不祥事事例から教訓を導き出すためには深い分析が必要となる。原因理解のためには当該企業の事業特性や組織文化、事件当時の状況などまで詳しく調べる必要がある。そういうと「いや、そこまでの解説は不要です。受講者をドキッとさせて欲しいんです。」といった話に落ち着くのだが、はたしてそれで何かを学べるのであろうか…。 たとえば「個人情報を漏洩させた企業が〇億円の損失を被った」という話を聞いて、何を学ぶのだろうか。「個人情報保護が大切だ」というようなことは、その事件の前からわかりきった話だ。むしろそんなことに事件を見て初めて気づくとすれば、その認識の方が問題だ。こんな表面をなでるだけの事例研究ではなんの意味もない。 では、意味のある事例研究とはどんなものなのか。例えば事例の分析から自社の管理の仕組みの欠陥に気づき、どこを改善すべきかを明らかにすることである。だとすれは上にあげたような事例研究ではなにも得られない。 口の悪い言い方になるが、私は先に述べたような事例研究のことを「体のいい暇つぶし」と呼んでいる。講師の語る「お話」を漫然と聞き、それで何かを学んだ気分になるのだが、実は何も学べていない…。