今村翔吾はウクライナ戦争を予知していた?「絵空事じゃないか」と葛藤しながら書き上げたものとは。『海を破る者』インタビュー
司馬遼太郎、藤沢周平、池波正太郎から体得したもの
――今村さんが書かれる小説は、「史実とされている出来事の解釈の仕方」が秀逸で、いつも感銘を受けています。河野一族が肉親同士で争っていたことや、「後築地」もそうです。 独自の解釈だけど、それが史実とズレていない。むしろ「新しい意味」を持たせ、読者に納得感を与えてしまう。そのようなキレのある史実の解釈を、常に生み出せる秘訣は? 天才なんちゃうかな(笑)、いやいや(笑)。 プロットの話もそうだけど、読書量だと思います。これは、単純に。 歴史小説は大概読んできたから、色んな作家さんのやり方が僕の中に入ってる。だから「司馬さん風にいくとどうやろ。藤沢さん風なら……。池波先生ならどう書くだろう。けど、この三人の隙間を通して、こうか」とか、自分の体の中に完全に入ってて。 プロットも、なんとなく小説のリズムや構成が染み付いてて、「再現できるな」って自信はあります。だから天才というか、努力の方だと思いますね。 ――少し話は脱線しますが、今村さんの小説は男性主人公が多いですよね。女性の主人公を書きたいと思ったことはありますか? ある。……あるけど、まだ出てない。そこはやらなアカンと思ってます。どっちかと言うと僕は男の人を書く方が得意で、編集者さんや選考会とかでも言われる時があるけど、女性に対しての憧れみたいなのが強いのかもしれない。 そういう意味で言うと、そこの殻を破ったのも『海を破る者』で……。今まで僕の書いてきた女性とは違う、カッコイイとか、キュートなだけじゃないのは、令那が初めてじゃないかな。 ――令那には「抱えている闇」もありますよね。いつか今村さんの書かれる悪女主人公も読んでみたいです。 日野富子はちょっと書いてみたい。アクが強いじゃないけど、資料が残ってて、当時の経済や銭を絡ませて描けるような、そういう人を書いてみたいって想いはありますね。 (取材・構成/沢木つま) 「河野の一族って、かなりエグイくらいもめてますね」今村翔吾と河野六郎通有にある共通点は、家族との軋轢 へ続く
「本の話」編集部