還暦で感じたいくつかのこと:小山薫堂 東京blank物語
放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第50回。 この6月、還暦を迎えた。僕の会社では社員の誕生日をみんなで企画してお祝いするのが恒例だ。しかも還暦ということでなかなかの大掛かりなプレゼントだった。 まず、企画会社「オレンジ・アンド・パートナーズ」からは「薫博64-24」、つまり「小山薫堂還暦博覧会」が仕掛けられた。会場は丸の内の某レストラン。僕自身の60年間の写真パネル、これまでやってきた仕事の詳細、15人のクリエイターによる薫堂還暦オリジナルTシャツなどが展示され、200人以上の方が駆けつけてくださった。「徹底大解剖!小山薫堂のかぞえかた」というボードには、「放送作家・脚本家として生み出してきた作品数(TV52番組以上、映画脚本6本)」や「昨年1年間に出張で移動した距離(およそ14万km つまり地球3周半分)」「昨年1年間の体重の増減グラフ(これはナイショ)」などが書かれ、自分を客観視できるよい機会になった。 放送作家事務所N35からは、「小山湯」のプレゼント。常々「自分の理想とする銭湯をやりたい」と言っていて、映画『テルマエ・ロマエ』にも登場した東京・北区のレトロな銭湯、滝野川稲荷湯を実際に1日貸し切れることになったのだ。いまその“理想”を追求すべく思案中。例えば「番台落語を開催 入浴中も聴けるようにする」「富士山の絵をライトアップ 提灯の明かりのみで楽しむナイト風呂」「男湯と女湯でデュエット」なんてどうだろう。 干支は十二支と十干の組み合わせから成っていて、60年で一回りする。自分の生まれ年の干支に戻る、つまり、元の暦に戻るから還暦という。人間、年をとればとるほどすべてわかったような心持ちになるし、好きなことにだけ興味を示すようになるけれど、還暦を迎えたいま、これまで築き上げてきたものを一度リセットして、生まれたての赤子のような気持ちで、謙虚に新しいものを吸収していきたい。嫌いなものも食べてみよう。知らないものや見たことのないものを拒絶せず、向き合ってみよう。そんなふうに思う今日この頃です。 ■旅の本質を味わえる船旅 還暦祝いといえば、「飛鳥II」に乗船したら、サプライズがあった。船長室に招待され、漆芸家の人間国宝・室瀬和美さんとオンラインで繋がり、なんと漆の風呂桶をいただいたのだ。感涙。 そもそも「飛鳥II」に乗ったのは、飛鳥クルーズ アンバサダーとして講演会があったからだった。タイトルは「幸せの企画術~人を喜ばせるということ」。企画の原点は冒頭にも書いたバースデイサプライズであり、誰かを喜ばせることに本気で取り組む姿勢が良い企画を生むというような話をさせていただいた。