「キズナアイ」から8年、VTuber国内市場規模800億円へ エンタメ界を席巻する存在になった「物語性」とは
矢野経済研究所の調査によると、広告収入や関連グッズ販売などからなるVTuberの市場規模は22年度に国内で520億円を突破。23年度には、800億円に達すると見込んでいる。 岡本教授は、VTuberには従来のアニメキャラクターとは異なる「物語性」があると指摘する。 「制作サイドが提供する完結した物語を受け取るアニメと違い、VTuberは同じ時間を共に過ごし、一緒に物語を作っていける。それがビジネスシーンで良い作用を及ぼしています」 ■チュロス売り上げ33倍 成功事例の一つが、三重県のテーマパーク「志摩スペイン村」とVTuberの周央(すおう)サンゴさんによるコラボレーションだ。きっかけは、21年12月の周央さんによる雑談配信にさかのぼる。初めて志摩スペイン村を訪れたという周央さんは、自身のチャンネルで、 「楽しいアトラクションがいっぱい」「キャストさんが優しく、接しやすい」「目玉のジェットコースター『ピレネー』の待ち時間が10分」 など語ること約45分。ときに率直な周央さんの感想は志摩スペイン村のスタッフにも伝わった。同施設の広報担当者は当時をこう振り返る。 「配信で初めてVTuberという存在を知りました。感想を率直に語るサンゴさんの言葉が面白くて、共感したという従業員も多かったです。そこからツイッターを通してコミュニケーションをとり始め、少しずつ仲が深まっていきました」 その後、周央さんは再び志摩スペイン村を訪問。そのことを話した配信動画の切り抜きも話題になり、「志摩スペイン村」がツイッターのトレンドに入った。これが後押しとなり、コラボの話が動きだした。 「サンゴさんの志摩スペイン村愛はもちろん、それを見守っているファンの方の思いにも応えたいと思いました。そしてサンゴさんからは、普段志摩スペイン村を訪れる家族連れやファンの方も楽しめるようにしたいとの提案がありました」 そこで生まれたのが、周央さんのお気に入りスポットや食べ物にフォーカスした企画だった。コラボ一色にするのではなく、施設の持つ魅力も大切にしたことで、従来のファンも楽しめるように心がけた。担当者は言う。 「コラボ期間の23年2~3月には、23万6千人と前年比の1.9倍の方に来園いただきました。また、サンゴさんの紹介したチュロスは1日平均千本と、例年の33倍の販売数でした」 イベントの成功を受け、今年もコラボが実現。周央さんだけでなく、友人のVTuber・壱百満天原(ひゃくまんてんばら)サロメさんも加わり、志摩スペイン村に再び熱狂が巻き起こった。(編集部・福井しほ) ※AERA 2024年12月16日号より抜粋
福井しほ