「キズナアイ」から8年、VTuber国内市場規模800億円へ エンタメ界を席巻する存在になった「物語性」とは
生身の人間が配信をするユーチューバーと異なり、VTuberの配信者は声を吹き込んだり、キャラと自身の動きが連動する「モーションキャプチャー」を使って踊ったりして、自分を表現する。チャット欄を通じて、視聴者と双方向のコミュニケーションがとれるのも特徴だ。 ■内閣府からも熱視線 主流なのは七海さんやキズナアイさんのようなアニメルックの3Dアバターだが、近畿大学総合社会学部教授で『VTuber学』などの共著もある岡本健(たけし)さんは「VTuberとはこうだと一言で表現するのは難しい」と話す。 「たとえばアライグマの静止イラストを用いて配信した場合、広い意味ではそれも『VTuber』と言えます。境界領域的なものがたくさん存在することもおもしろさの一つです」 岡本教授もそのユニークさに魅了され、「大学教授の岡本健」とは別に、「VTuberのゾンビ先生」として授業を配信している。魔界の禁忌大学で働くゾンビ先生は、休暇を利用して近大の岡本研究室に居候しているのだという。 「配信ではゾンビ先生の設定に乗りつつ、僕が子どもの運動会に参加したとかパーソナリティーが見える話をすると、それが視聴する人の親近感を掻き立てることもあるんです」 年齢や性別、国籍などを超えた表現ができるVTuberは、さまざまな分野に進出している。23年には星街(ほしまち)すいせいさんがユーチューブの人気コンテンツ「THE FIRST TAKE」に出演。史上最多同時視聴数を達成し、総再生回数は1771万回を突破した(12月4日時点)。また、内閣府はロケット工学系VTuberとして活躍する宇推(うすい)くりあさんを「宇宙開発利用大賞」のPRキャラクターに起用するなど、行政からも熱視線が集まる。 拡大するVTuber市場だが、起爆剤の一つには、大手事業会社の上場がある。22年6月には「にじさんじ」を運営するANYCOLOR社が、23年3月には「ホロライブプロダクション」のカバー社が相次いで上場した。いずれもVTuberを技術面やマネジメント面でサポートしており、ユーチューブでいうUUUMのような存在だ。近畿大の岡本教授は言う。 「この2社は市場を牽引する存在であり、自分たちが業界を背負っているという意識を強く持っています。2社が上場したことで、企業や行政もコラボしやすくなりました」