賃金&物価UPは達成?いま考える、アベノミクスの功罪は?竹中平蔵「安倍内閣が進めた規制緩和の効果がいま出てきている」 これからの成長産業は
■金融緩和「2014年に消費税率を上げなければよかった」
「金融緩和」を行うと、企業が資金を借りやすくなるため、企業の業績向上や賃金アップ、設備投資拡大など、いわゆる「トリクルダウン」による好循環をもたらし、消費が拡大していくとされてきた。当初は2年で2%の物価上昇を掲げていた。
しかし金子氏は、金融緩和によって、“一部の企業”は業績が向上し、賃金アップにつながったものの、設備投資の低速や内部留保の増加により消費が低迷した結果、消費者物価指数は上昇しなかったと考えている。 金子氏は「『2年で2%上昇』の目標を達成しなかったが、そのまま『トリクルダウンが起こるまで待とう』とマイナス金利政策を続けたが、10年近くやって、結局うまく行かなかった。ある時点で切り替えれば良かったが、ズブズブと入り込みすぎた結果だ」と批判。
賃金と消費者物価(指数)の推移はどうか。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2007年時点で95前後だった消費者物価指数は、2023年に105.6となった。名目賃金は90前後から103.1に伸びたが、実質賃金は110前後から97.1へと下がっている。
経済学者で慶應大学名誉教授の竹中平蔵氏は「2014年に期待物価成長率は2%になり、その時点で成功した。ところが2014年に消費税率を引き上げると、期待物価上昇率は下がった。あのとき上げなければよかった」と説明する。 また、政府は十分に規制緩和できなかったとも指摘する。「日銀だけがハシゴを外された形になるため、黒田前総裁は2016年から金融政策を変えた。国債の買い上げを2016年の80兆円から、最後は20兆円程度に減らした。植田総裁の役割は、最終的な微調整になっている」。
財務省の法人企業統計調査によると、企業の内部留保は2012年度に300兆円ほどだったが、年々右肩上がりで、2023年度には600兆9857億円となった。 金子氏は消費増税よりも、その使途に問題があると見る。「社会保障を増やすはずが、安倍氏は法人減税に使った。しかし企業は内部留保をため込むばかりで、賃金は増やさず、配当を増やした。消費に向かないのは当然で、企業も投資に向かうような行動を取らなかった」。 竹中氏は、内部留保が増えた理由を「国内では投資機会がなかなか作れなかったからだ。ところが今は東京都心にものすごくクレーンが立っている。安倍内閣の時に作った規制緩和の制度で国家戦略特区というものがあり、それがいま効いてきている」と考察する。しかしながら、「安倍内閣は前半と後半で、違う性格になったのが残念だ」とも語る。「モリカケ問題から、周囲が安倍総理を前面に出さなくなり、思い切った改革ができなくなった」。 その後、菅政権、岸田政権を経て、石破政権となった。「いいところを引き継いで、できなかったところを直す。そういう当たり前の議論を『いいか、悪いか』ではなくしてもらいたい」。 竹中氏はアベノミクスが果たした役割を評価した上で、「海外企業が日本に投資している」ことの重要性を語る。「『日本は“眠れる森の美女”だ』と言われる。日本にはポテンシャルがあるが、それを生かすシステムがない。安倍政権でコーポレートガバナンスのシステムに手を付け、『ちゃんとやらない社長は辞めてもらう』となった。海外企業が日本を評価する時には、コーポレートガバナンスの変化に触れる」。