そして親が残された…かつての“あこがれ” 高蔵寺ニュータウンの今(上)
人口減少の波は地方の農山村だけでなく、都会の「ニュータウン」も直撃しています。高度経済成長期に開発され、団塊世代の「あこがれ」として輝いていた人工の街。しかしその老朽化、高齢化は予想を超えて急激に進み、深刻化する問題解決に向けた取り組みが各地で始まっています。東京の多摩、大阪の千里と並ぶ「3大ニュータウン」の一つである愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの今を見てみました。 「枯れては咲く」住み継ぐことのできる街へ 高蔵寺ニュータウンの今(下)
漂う高齢者、戸惑う母親
平日の昼下がり、気温は30度を超える真夏日。ただでさえ出歩く人は少なく、ニュータウンの通路には、ほとんど人影がありません。 都市再生機構(UR)の賃貸集合住宅が立ち並ぶ「藤山台」地区の西端まで歩くと、駐輪場前の芝生に初老の男性が一人、座り込んでいました。 「近くのサークルKがファミマに変わったというから、自転車で買い物に行ってきた」と疲れた様子でつぶやく60代の男性。 10年ほど前まで名古屋市内に住んでいましたが、家賃が高くなったためこのニュータウンに引っ越してきたそう。部屋は一番安かった5階建ての最上階。エレベーターはなく、階段で上がるのは少しきついけれど、まだ大丈夫だと言います。 「年金生活で一人暮らし。なぁんにもすることがない。近所づきあいはあいさつ程度。住民は高齢化もそうだけれど、格差が激しいように感じる。ニュータウンも昔はあこがれだったのかもしれないが、今は私らのような人間が入る“はきだめ”みたいなところもある」。 こんな強烈な言葉を残して、男性はコンビニの袋を手に階段を上っていきました。 他の地区も歩いてみると、所在なさげにベンチに座っていたり、ベランダからぼんやり外を眺めたりしている高齢者が目につきます。賃貸住宅の4階や5階は人の気配がない部屋が多く、郵便ポストは空き部屋を示すシールだらけの棟も。 しかし、夕方になれば元気に遊び回る子どもたちや、若い母親たちの輪があちらこちらにでき始めます。 「岩成台」地区の保育園に子どもを迎えに来ていた40代の母親は、「町内会では歩けない人がいたり、小学校の統合の噂もよく聞いたりするので、少子高齢化ということでは不安がありますね」とこぼしつつ、「でも静かで環境はいいところ。愛着はあります」と話しました。