そして親が残された…かつての“あこがれ” 高蔵寺ニュータウンの今(上)
1995年をピークに人口減少
高蔵寺は名古屋市の北東に位置する春日井市の丘陵地約700ヘクタールを対象に切り開き、1968年に入居が開始されたニュータウン。当時の日本住宅公団が手掛けた全国初のニュータウン開発として注目を集めました。 当初の計画人口は8万1000人、計画戸数は約2万戸。ショッピングセンターや飲食店、交番や郵便局などが集積する「センター地区」を中心に7つの住区で構成され、約8000戸の賃貸住宅と2400戸の分譲住宅や県営住宅、約9200戸の戸建住宅、そして小中学校や高校などが整備されていきました。 高度成長期からバブル期を通して人口は順調に増え、95年には約5万2000人に。しかし、これをピークに人口は減少に転じます。団塊世代の子どもたちが巣立ったまま新しい入居者は増えず、残された親たちが一斉に高齢化していったからです。 現在の人口は4万5000人を割り込み、65歳以上の高齢化率もニュータウン全体で約30%、地区によっては40%を超えています。これは春日井市全体の約24%、全国平均の約25%をはじめ、多摩ニュータウンの約21%を大きく上回り、千里ニュータウンの30%とほぼ同じ水準です(いずれも2015年時点の比較)。 URとともに土地や施設を所有、管理する春日井市が危機感を持ったのは2013年ごろから。市企画政策部の担当者と大学教授らを交えて課題や対策を整理、2015年には「ニュータウン創生課」を新設し、再生計画を策定する有識者委員会を立ち上げました。
2016年から「リ・ニュータウン計画」
委員会の資料として出された各種アンケートによれば、ニュータウン全体の住環境が総合的に「満足」か「ほぼ満足」と答えた住民は74%。年代別に見ると50代で満足度が77%を超えていましたが、20代では67%と落ち込み、次に低いのは70代の約72%でした。 要素別に見ると「緑の豊かさ」や「住宅周辺の静かさ」「建物の高さやまち並み」への満足度がいずれも8割超。一方で「高齢者や障害者のための福祉施設」「徒歩や自転車での行動のしやすさ」「まちの活気」などは不満の方が多くなっていました。 委員会では高蔵寺が多摩や千里と違う特性として「商業施設が中央部に集約されている」「区域内に鉄道がなく、公共交通をバスが担っている」ことなどを指摘。それらの課題と対策を検討して、市は16年3月に「高蔵寺リ・ニュータウン計画」を策定。主要プロジェクトとして小学校統合後の旧校舎(旧藤山台東小学校)を活用した「多世代交流拠点の整備」や、ニュータウンへの玄関口でありながら賑わいのない「JR高蔵寺駅周辺の再整備」などを進めることを決めました。 同年10月には愛知県と共同で自動走行車の実証実験も行い、病院や買い物に出るお年寄りの新たな「足」としての利用を探り始めました。多世代交流拠点はこの夏に着工し、来春に完成予定。今年10月には運営主体となる「まちづくり会社」も発足予定です。 ニュータウン創生課の水野真一課長は「賃貸住宅の空き家率は17%と高いですが、戸建住宅の空き家率は3%程度。決してボロボロの家が並んでいるわけではありません。ただ、これらも地価の下落傾向で売却が先延ばしにされている可能性もあります。地価の下落を食い止め、中古住宅を健全に流通させる仕組みも必要」として、市とUR、商工会議所などでつくる「高蔵寺ニュータウン住宅流通促進協議会」の取り組みも強調しました。 しかし、行政の視点はどうしても全体的で、施設整備が優先しがちです。これに対して目に見えにくい、個別的な問題で以前から大きな危機感を持ち、住民の中で再生を探る取り組みも進んできました。次回はその一つである「高蔵寺ニュータウン再生市民会議」の動きを中心に紹介します。 ※高蔵寺ニュータウンの今(下)に続く。 ---------- ■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆