〝見捨てられた老人ホーム〟問題、報道番組スクープも一件落着ではなかった「キーパーソンは元取締役…今後、大事件に発展する可能性」
【元文春エース記者 竜太郎が見た!】 報道番組「LiveNewsイット!」(フジテレビ系)がスクープした〝見捨てられた老人ホーム〟問題は、超高齢化社会の日本に直面する危機をまざまざと見せつけたといえる。 東京都足立区にある住宅型有料老人ホームで9月末から10月にかけて職員30人が退職し、90人近くいた入居者が施設に取り残され、食事や入浴、身の回りの世話がままならない劣悪な環境に置かれていたという。 「掃除がされていなくてゴミが散乱していた」「2週間に一度しかお風呂に入れてもらっていなくて髪の毛がフケだらけだった」など関係者の証言があり、経営母体X社が運営する他の施設も同様の事態だったことが発覚。自治体の支援もあり、10月10日までに問題の施設から入居者は転居したというが、これで一件落着というわけではない。 「X社の外注で給食事業を請けていた会社は、入居者を飢えさせるわけにはいかないと毎日40万円の赤字を覚悟して2週間奉仕していました。しかし未払い分が約3000万円あり、経営的にも限界となりこれ以上続けることはできなくなった。一方で業界内の風評被害がきつく、取引が切られるケースも出てきてしまい、もはや会社を閉鎖せざるをえない状況だそうです。ここでも30人の従業員が犠牲になる、あまりにも理不尽だ、とその会社の社長は泣いていました」(介護施設関係者) 入居者の食事提供のサポートを行政に相談した際にまともに取り合ってもらえなかったことも絶望の背景にあるという。 今回は〝給与の未払い〟がきっかけで職員の大量退職を招いたとされているが、関係者を取材すると、根本的な原因はずさんな経営にあったようだ。 「キーパーソンは昔から介護事業のデベロッパーをやっていたX社の元取締役のA氏で、老人ホームの立ち上げから運営まですべて仕切っていました。介護事業はやり方によっては利益がちゃんと出るビジネスで、当初A氏は資産家の医師と共同でやっていました。実は開業当時から職員数は推奨人数に比べてかなり少なく、次第に悪評が立ち、同時にオーナーの医師との関係も金銭面でギクシャクした。そこでA氏が主導して現オーナーB氏にX社を買ってもらったのです。当然B氏には経営責任はありますが、彼自身知らされていないこともあり、今後そうしたことが明るみに出ると大事件に発展する可能性もあります」(X社をよく知る関係者) 介護難民を出さないために国は介護事業参入を推進するが、それがどんな企業なのか精査する必要はある。加えて現行の制度とルールを見直さなければ、今後似たような〝老人置き去り〟のトラブルが起きるのは必然であろう。
■中村竜太郎(なかむら・りゅうたろう) ジャーナリスト。1964年1月19日生まれ。大学卒業後、会社員を経て、95年から文藝春秋「週刊文春」編集部で勤務。NHKプロデューサーの巨額横領事件やASKAの薬物疑惑など数多くのスクープを飛ばし、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞受賞は3回と歴代最多。2014年末に独立。16年に著書「スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ」(文藝春秋)を出版。現在、「news イット!」(フジテレビ系)の金曜コメンテーターとして出演中。