TRIPLE AXEはロックシーンへのカウンターであり高め合うホーム 濃密な12年間を辿るフロントマン鼎談
SiM、coldrain、HEY-SMITHの3マンツアーに端を発し、12年間にわたって続いてきた3バンドの合同企画 TRIPLE AXE。その存在は、2010年代以降の国内ラウドシーンの象徴そのものだと言っていい。全国各地のライブハウスを回ってきたTRIPLE AXEツアーはZepp規模まで拡大し、2018年には初の海外公演を台湾で実現、2019年には15人で1つのバンドとなって日本中の夏フェスにまで乗り込んだ。2020年にはTRIPLE AXEとして初の音源作品『15MANIAX』をリリース。コロナ禍に入ってもロックバンドとして刺激を求め合うスタンスが揺らぐことはなかった。今年の夏にはついにラストツアーを開催し、8月に幕張メッセイベントホールにてファイナル公演を迎えたものの、TRIPLE AXEの歴史に終止符を打つわけではなく、むしろ3バンドがさらなる新章を迎えるために必要な“現時点でのラスト”であるという旨は、ファイナル公演でも述べられていた通りだ。 【写真】SiM・coldrain・HEY-SMITH、各バンドのフロントマンが集結 今回は各バンドを代表して、SiM・MAH(Vo)、coldrain・Masato(Vo)、HEY-SMITH・猪狩秀平(Gt/Vo)によるフロントマン鼎談が実現。濃密な12年間に対する手応えや、ラウドロックシーンに対する想い、そして“これからのTRIPLE AXE”などについて語り合ってもらった。(信太卓実) 「2バンドを見て、ライブで高揚させるテクニックを教えられた」(MAH) ーーTRIPLE AXEとしての合同企画は2012年に始まりました。ラウドロックと一口に言ってもそれぞれの音楽的な個性は全く異なりますが、改めて、この3バンドで団結できたのはどうしてだと思いますか。 MAH:当時って、3バンドともどのシーンに行ってもズレていたというか。HEY-SMITHはメロディック(パンク)畑出身だけど、やっぱり他のメロディックのバンドとはちょっとズレてるし、coldrainはストレートな音楽性のように見えて当時の日本にはいなかったスタイルだったから、自分たちがスッと落ち着けるホームのようなシーンがなかったんですよね。だからTRIPLE AXEがホームになれたんじゃないかなと思う。 Masato:ライブを常に意識していたし、そこで狙っていく熱量が近い3バンドなのかなっていう気がするけどね。 猪狩秀平(以下、猪狩):うん。それぞれのバンドを円にするとそうやって重なってる部分は絶対にあるんやけど、やっぱり3バンドともみんな違っていて。違うからこそ良かったのかなとも思うし。 MAH:そうだね。俺らが最初に出会ったのは、TRIPLE AXEを始めるよりも2~3年くらい前で。SiMの楽曲は今よりもっとレゲエ調が強くて暗かったから、他の2バンドを見ていて、ライブで人を高揚させるテクニックみたいなのをすごく教えられたんですよね。「楽曲のどういう要素がこのノリ方に繋がってるんだろう?」とか、「このビートにあれを乗せるとお客さんはこういう動きになるんだ」とか。そういうことを勉強してSiMの曲に取り入れていった上で、TRIPLE AXEに挑んだんですよ。 猪狩:その感じ、あったな。MAHが俺らのライブを観ながら「どうやったらもっと盛り上がるのか」って考えて、「速い2ビートにロングトーンを乗せたらいいんじゃないか」とか言ってたのはめちゃくちゃ覚えてて。俺は自分の曲を分析したことがなくて、なんとなく作っていただけやったから、そうやって噛み砕かれて「確かに」ってめっちゃ気づいた。 MAH:へえ。狙ってなかったの? 猪狩:狙ってなかった! その後の曲から、俺らも自分なりのテンポとかトーンの長さをめっちゃ研究するようになりました。 ーーMasatoさんは他の2バンドを見て、何かcoldrainに還元されたと思うことはありますか。 Masato:今言ってたような話は俺らにも確実にあって。HEYとSiMにはスカの要素で被るところがあるけど、じゃあcoldrainにしかない違う要素は何なのかって考えたら、やっぱりツインギターになると思うんですよね。さらに俺の場合は「もっと歌えなきゃ」「バラードもできるボーカリストにならなきゃ」みたいに考えて、2バンドに負けない自分たちだけの要素をより突き詰めるようになったし、そこはTRIPLE AXEをやる上ではすごくいい修行になっていると思いますね。 「やり続けることへのこだわりを共有できてるのがいい」(猪狩) ーーTRIPLE AXE自体への手応えはどう感じていますか。 猪狩:俺はバンドをやる上での目標が、“音楽の歴史教科書”みたいなものがあったとして、それに載ることなんですよ。The Beatlesが表紙のロック教科書とかでもいいんですけど、TRIPLE AXEってそこに載れる存在になれたと俺は思っています。ロックシーンの流れがあって、その中にこんなヤバい3バンドがいて、しかもその3バンドが集まって一緒に曲を制作して……「よし、1つやってやったな!」という感覚はありますね。まあ「なんでバンドやってんの?」と言われたら楽しいからやし、自由やからに尽きるんですけど、もうちょっと明確化したいなと思った時にロック教科書っていうのが浮かんで。俺らはそこに載るページ数を増やしていきたいです。 Masato:俺は3バンドそれぞれが、お互いに負けることなく12年間続けてこれたと思っていて。毎年TRIPLE AXEという企画をやる中で、誰かが誰かのお荷物になる瞬間はなかったと思うし、誰かの敷いたレールに沿うとかじゃなくて、全員で高め合いながら強くなって成長してこれた実感がありますね。こういう3バンドが12年間ずっと一緒にライブをやっているというのは、さすがに他にはないんじゃないかなと。 ーーcoldrainの5人としてではなく、TRIPLE AXEの15人だからできたと思うことは具体的にありますか。 Masato:途中でHEYのメンバーが変わったりしたんですけど(2015年)、TRIPLE AXEに後から入ってきたメンバーって結構大変だったと思うんですよ。でも初めて一緒にやったはずなのに、ツアー回ってみて運命を感じたというか、すでにTRIPLE AXEの繋がりを理解している感じがあったから、すげえやりやすかった。今の15人が持ってる力強さは出会った瞬間から感じていたし、15人でバンド組んでフェスを回ることになったとき、猪狩が来なかったこともあったけどーー。 猪狩:待って、来なかったわけじゃないからね(笑)。いろいろあって行けなくて。 Masato:でも、そういうときでも14人で15人分のライブができるように補い合ったりとか。常にそういうメンバーの絆を感じながらやってこれたなと思いました。 ーー先ほど、もともとロックシーンに居場所のなかった3バンドだというMAHさんの話もありましたけど、TRIPLE AXEはそこへのカウンターとして12年間団結してきた側面もあると思うんです。その意味で、シーンに対して築き上げられたものがあるとしたら何だと思いますか。 MAH:Masatoも少し言ってたけど、俺らを見て“3つのバンドで何かをする”みたいなやり方にみんな挑戦したがって、挑戦したバンドもいたけど、ここまでの存在になれたヤツって絶対いないんですよ。それは規模とかで見下しているわけじゃなくて、これだけ濃密な時間を過ごして12年間ほぼ毎年やってきたわけだから、そりゃあ俺らを超えることはできないよなって思う。いろんなバンドマンから「TRIPLE AXEみたいなことを俺らもできたらな」って今でも言われるけど、そもそもを言うと湘南、名古屋、大阪で同時期に下積みを重ねていた同世代であり、ちょっとずつジャンルは被ってるけど個性は違っていて……っていう、この3バンドの巡り合わせ自体が奇跡のようだからなって。なんでこの3バンドが埋もれていたんだろう、そして出会えたんだろうっていうのは運命みたいだなと思うし、TRIPLE AXEが周りのバンドマンたちに羨ましがられる存在になれたことで、居場所のなかった俺らがシーンをひっくり返せたんじゃないかなって思うと気持ちいいですよね。 ーーわかります。TRIPLE AXEより上の世代が作った象徴的なフェスとして、例えば10-FEETの『京都大作戦』がありますけど、ミクスチャーロックという名の下でいろんなタイプのバンドが集まってくる、すごく開けた懐の深いフェスになったと思うんです。一方でTRIPLE AXEの場合は、この3バンドであることに強い意義を見出していて、いい意味で閉じながら居場所を守ってきた部分も大きいと思っていて。そこに関してはいかがですか。 MAH:閉じたりとか締めたりする部分が三者三様で全然違うんだけど、間を上手く取るとTRIPLE AXEくらいの開き具合になるんだなっていう。そこも絶妙で、不思議なんだよね。 猪狩:たぶん、“閉じる”とか、同じ1つのことをやり続けるのとかって、めっちゃむずいと思うんですよ。そっちの方がエネルギーの使い所に悩むと思うし、俺らも下手したら「3バンドそれぞれでやればいっか」「違う3バンドでツアーやろう」とか、そんな風になっていたかもしれない。音楽を続けてると、レスポール好きやったヤツが急にストラト(キャスター)とか持ち出したりするんですけど、「いやいや、レスポール持ってくれよ!」とファンは思ったりするわけやし。でも、この3バンドでそこへのこだわりをちゃんと共有できてるのがいいんじゃないかなって俺は思っているし、しつこくそういうことをやってきたよね。 Masato:さっき同世代の3バンドが集まれたのは奇跡だと言ってたけど、それこそ10-FEETとかロットン(ROTTENGRAFFTY)とか、あれくらい開けたフェスをやっているけど激しい音楽が好きな先輩たちがいたのは、俺らにとってはデカいことだったと思っていて。その世代のバンドの後輩としては、もしかしたらやるべきことをやったんじゃないかなって思うし、そういう先輩たちの幅広い活動を駆け出しの頃に見せてもらえて、タイプが全然違うのにツアーに呼んでもらえたりっていうこともあったから、そういう意味では影響を受けているなと思います。TRIPLE AXEも『大作戦』に出られたからこそ生まれた企画なので。