定時に帰る優秀な人たち…人が足りない地方企業が苦戦する「若者の採用」の実態
大幅に増える女性従業員、労働時間は大きく減少
同社の従業員は現在およそ30名。従業員の性・年齢構成は過去から大きく変わっている。これまで営業を担う社員はほとんど男性であったが、介護事業が成長するにつれて従業員の女性比率が高まり、いまでは子どもをもつ女性も事業の主戦力となっている。 働き方も過去から大きく変わった。十数年前は夜遅くまで働くことは当たり前であったが、いまではほとんどの社員が家庭の時間を優先し、定時の16時30分には仕事を終える。 「昔はハイエースに衣服を詰め込み、売れるまで帰ってくるなと、そういう営業をやっていました。ただ、もうそういう時代ではありません。国からも働き方改革を要請され、労働者側も労働条件をよく吟味する時代に変わってきています。この前中途で採用した人は、募集要項の『基本残業なし』という項目が決め手になって弊社を選んでくれたと聞きました。 私の部署にも若手のエースがいます。彼は非常に優秀で営業の数値も抜群です。ただ、彼も定時になると仕事を切り上げてきっぱりと帰っていきます。従業員により良い労働環境を用意しなければ、優秀な人を採用し、定着させることはできない時代になってきたと切実に感じています」 従業員の労働条件の改善に力を入れる中、短い労働時間で企業の業績を維持することは簡単なことではない。同社もここ最近で商品・サービスの価格を3%程度引き上げた。しかし、人件費単価の上昇圧力に加えて、商品の原価や運送料も上昇を続けており、企業利益を確保する難しさは増している。 「当社でも働き方の見直しを行って以来、短い時間で成果を出せるように従業員全員が生産性高く仕事をするようになりました。ただ、介護事業はたとえばベッドのリースにあたって、それがなぜ必要なのかを丁寧にカルテに書かなければいけません。必要な書類が山ほどあって、時間内で仕事を終わらせるためにみなが作業に忙殺されていて、生産性を高めるのももう限界だとも感じています。 世の中では賃上げの動きが広まっています。地域では働ける人が減少していく中で、当社としても優秀な人員を確保するためにもさらなる労働条件の改善や賃上げは考えていかなければならないでしょう。ただ、労働者にとってこうした流れは好ましいことなのでしょうが、その原資はどこから出すのでしょう。これ以上待遇改善の動きが広まっていくことに関して、経営者としての危機感は少なからずあります」
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)