エリクソンレポートが示す世界の5G拡大とFWAの急成長、5G SAによるマネタイズ事例とは
エリクソン・ジャパンは、モバイルネットワークの世界的動向を調査した「エリクソンモビリティレポート」の最新版を公開した。 【この記事に関する別の画像を見る】 同社では19日、記者説明会を開催。5G契約件数や5G SA、5Gサービスで利用している周波数、固定無線アクセス(FWA)の普及状況やマネタイズの見方など世界のモバイル通信の最新動向が紹介された。 ■ 5Gへの移行は着実に進む、2027年には4Gを逆転 まずは、携帯電話を含めたモバイル全体の加入契約数を見る。2024年第3四半期の世界の5G契約件数は約21億人。レポートでは、2027年にも既存の4Gなどを抜き5Gが全体で1番の契約数になるという。 5G SA(Stand Alone、コア設備など5G専用の機器を使った5G通信)の加入者は、2024年第3四半期時点で12億件ほどだといい、2030年に5G契約数全体の約6割の36億件になると見込んでいる。 一方、次世代通信技術「6G」の準備も着々と進んでいるといい、2030年にも早期展開されるのではと予測するが、エリクソン・ジャパン チーフ・テクノロジー・オフィサーの鹿島毅氏は、6G契約数を含む資料を示しつつも、答えられる具体的な数字はないとし、標準化は進む一方で、マネタイズの課題などで提供開始にはまだ時間がかかると示唆した。 次に5G端末の状況を見る。スマートフォンの販売台数は、3年ぶりに前年同期比でプラス成長となった。ハイエンドモデルを中心にAI/生成AI機能の搭載や、折りたためるスマートフォンが登場するなど、スマートフォンの魅力が向上していると分析。 また、IoT機器など機能を絞った安価な5Gデバイス「RedCap」も注目されつつある。日本においても総務省の情報通信審議会で技術要件などが審議されており、スマートフォンだけでなくIoT機器などへの5Gの広がりが見えてきている。低軌道衛星などを活用する非地上系ネットワーク(NTN)の展開については、対応のスマートフォンの発表が進んでおり、2025年にかけてより広く導入されると見込まれる。 地域別では、5G契約はすべての地域で増加傾向にある。特にアフリカでは、2030年に全体の約3割が5G契約となると予測されている。一方、鹿島氏は「5G SAからいきなり導入された地域もある」とし、予測よりも普及が進む可能性に言及した。 ■ 増え続けるデータトラフィック、NR周波数も含めて活用を モバイルネットワークのデータトラフィックは世界でますます増加してきている。2024年第3四半期時点で157EB(エクサバイト、1EB=10億GB)に達し、年率換算で21%増加。周波数の有効活用が急務となっている。 2030年には、全体の約80%が5Gで担うことになると予測。2024年から2030年にかけて、トラフィック全体が約2.5倍、FWAを含めると約3倍になると見込まれる。これに加え、4G契約から5G契約に移行するなど4G/3Gのデータトラフィックは減少するため、全体の増加量以上に5Gが担うデータ量は増加するようになる。 たとえば、スマートフォン1台あたりでの月の平均データ通信量は、2024年で約19GB、2030年には約40GBに増加すると予測。なかでも、インドでは32GBと最も高く、地域によってはより大きなトラフィックを5Gが担うことになる。 このため、5Gでは現在以上にトラフィックを捌く準備をしておかなければならない。日本では5G専用周波数ともいわれるミッドバンド(おおむね3GHz~7GHz帯)でカバレッジを強化することに加え、4Gで使用されているローバンドでの5G展開もあわせて行い帯域を確保していく必要がある。 ■ 世界で増える固定無線アクセス、速度ベースの料金体系 固定無線アクセス(FWA)は、モバイルネットワークを使用した固定向け通信。世界のFWA接続数は、2024年に1億6000万で、2030年には3億5000万へ増加することが見込まれている。 地域別で見ると、過去12カ月間に世界で開始された5G FWAの73%を欧州が占めており、欧州でのFWA普及が顕著と指摘。一方、4G回線のFWAでは、以前の予測から2年過ぎた2026年に接続数のピークを迎えると予測。2030年にはFWA接続の約8割を5Gが占めると予測する。 日本ではあまりなじみがないが、世界のFWAサービスでは、通信速度をベースにした料金プランが登場している。鹿島氏は、ブロードバンドでも同様の料金体系があるためにユーザーからも理解されやすいと分析。1つの事業者でも地域によって提供速度が異なるため、サービスレベルを区切って料金差を付けるビジネスモデルがとられている。 FWAは北米で導入が進んでおり、なかでも約9割が5Gを利用、ほとんどの事業者が速度ベースの料金体系としており、FWAをブロードバンドの代替手段として収益化できているという。 FWAのユーザー側端末となるCPE(Customer Premises Equipment)では、速度ベースの料金体系とする事業者のCPEでは屋外タイプの割合が多い。屋外CPEは設置工事が必要だが高い通信品質が期待できる。また、ユーザーが自身で設置できる屋内外対応のモデルもあり、品質保証レベルを維持したまま効率よく電波環境を整えられる。 ■ カバレッジは2030年に8割超 5Gのカバレッジ構築も進んでおり、中国を除いた人口カバレッジは2024年末には45%、2030年には85%に達すると予測する。 中国やインドでは、5Gの人口カバレッジが95%と地域別に見ても最も普及している。また、北米でも90%と高い割合で、これらのエリアでは、ミッドバンドでのエリア展開も積極的に進められている。 一方、ほかの地域ではその割合に大きく差がある。たとえば、ロシアを除く欧州では、5Gの人口カバレッジ80%に対し、ミッドバンドでは45%にとどまっている。 鹿島氏は、5Gならではの通信体験をするためにもミッドバンドのカバレッジ拡大は重要だとコメント。増加するトラフィックを捌くためにも、ミッドバンドの重要性を説く。 ■ 5G SAの活用 5Gでは、4Gと比較し超高速、大容量、低遅延が特徴の通信技術だが、ネットワークを層のように分けて、あたかも専用の通信網として利用できるネットワークスライシング技術などが備わっている。 日本でも5G SAサービスが提供されているが、SAならではのサービス事例はまだ少ない。鹿島氏も、SAで繋がった確認はできたことがあるとする一方、実際にサービスとしての違いがわかるよう機能をどうサービスに繋げるかが重要と指摘。 レポートの特集には、5G SAを積極的に導入している米Tモバイル(T-Mobile)の事例が紹介されている。同社では、ネットワークスライシングも導入しており、企業や政府などDXを推進するなかで秘匿性の高い情報をやりとりする用途などで提供している。 これ以外にも、同社ではイベント向けや用途を限ったスライスの運用も実施している。 たとえば、イベント用に設けたスライスでは、イベント内の映像配信に活用したり電子チケットや決済などユーザー体験に直結する用途で使用したりする。 決済用にスライスを用意すれば、一般用のスライスが混雑していても、スムーズに決済できる。店舗側の決済端末やユーザー端末の決済アプリがそのスライスを使用できるようにすれば、大規模イベントでの通信対策につながる。 このほか、消防や救急、警察用にエリア全体でスライスを用意したり、カメラや配信機材向けに専用のスライスを設け通信品質を確保したりする方法もある。 一方、フィンランドでは一般回線とは別のスライスを用意して高品質の通信を提供する「プレミアムFWA」サービスが導入されている。保証された帯域幅と低遅延性で低廉なプランと差別化することで、収益性と高い顧客満足度を確保している。 ■ デジタル空域と生成AIの影響 レポートでは、このほかドローンや飛行機など空中に向けたモバイル回線のエリア展開や、生成AIの普及が与える影響についても特集されている。 これまでは、地面を目掛けてカバレッジを構築してきた。現状でもドローンなどでモバイル回線が使われているが、多くが地面を狙った基地局から“漏れた”電波を活用している。ドローンやエアタクシーサービスなど“空”を活用していくのであれば、今後は“空のカバレッジ”としてのデジタル空域についても考えていかなければならないと指摘する。 また、生成AIの普及が与えるモバイルトラフィックへの影響について、メリットとデメリットがあると鹿島氏は説明。 生成AIにより、より高い圧縮技術が導入されれば、トラフィック量の減少が期待できる一方、生成AIによりパーソナライズされたコンテンツをユーザーごとに配信するようになれば、下りのトラフィック量は増加する。また、クラウド型AIの利用など、画像データをAIに渡すことが増えれば、上りの帯域幅を拡大させる必要が生じてくる。こうした予測から、生成AIの拡がりは、モバイル通信の増大をさらに後押しする可能性が示された。
ケータイ Watch,竹野 弘祐