京都の大人が行きつけにする三条木屋町のイタリアン、メニューはあってなきがごとし、気さくな雰囲気もクセになる
取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛 ■ セルフで生ハムカットが楽しめる、気さくな雰囲気がクセになる 【写真】『平目のトルティーノ』。カリカリのじゃがいもと香ばしく焼いた平目のうま味が溶けあう。芽ねぎやサワークリームで味を変えながら食べたい 「どうしてだかオジサンに好かれちゃうんです」。 イタリアン「京都ネーゼ」のオーナーシェフ森さんは、そういって茶目っ気たっぷりに笑った。 京都三条木屋町すぐの場所にオープンして今年で18年。この店は文化人・著名人が多く通う、京都人いきつけのベテランイタリアンだ。 ビルの3階という立地もいいのかもしれない。観光客であふれかえる高瀬川に面していながら、通りすがりの人々の目からうまく隠されている。調理技術も食材もきちんとしているが、コースではなく単品できままに飲んで食べられるのも最大の魅力。客層は食通の大人が大半で、おいしいものをゆったり楽しんでいるのがわかる。 メニューは、あってなきがごとし。 「お客さんに頼まれたらなんでもやっちゃいます」と気持ち良いほどきっぱりと言い放つ。 たとえ端正なパスタであっても「生ハムも一緒に食べたい」とか、「目玉焼きのっけて」とか、自分好みのカスタマイズは大歓迎という。そういえば、京都在住の常連に連れられてラストオーダー間際に飛び込み、裏メニューの『ナポリタン』を食べたこともあったっけ。 トッピングで人気の生ハムはホール中央のスライサーで、ゲストがセルフで切るスタイル。それはまたどうして? と聞くと 「自分で切ると楽しいでしょう」という。 確かに! 生ハムなんて自分で切ったことがないもの。単純明快にさっぱりと明るい雰囲気がなんともいえない。それが心地よくてついつい通ってしまう常連が後を絶たないのもわかる。
■ スタンダードなものほど手間をおしまず、シンプルに素材の良さを生かす 『ホワイトアスパラのクリームソース』にもパルミジャーノと生ハムがこんもりと添えられていた。チーズが別添えなのは、好きなタイミングでかけて欲しいから。飽きないように、味を変えつつ食べてもらえるようにという配慮なのだ。 その日のメニューは食材ありきで決めるという。だから皿の中には季節感が現れてくる。 『平目のトルティーノ』は、焼いた平目にカリカリのポテトをのせたイタリアンの定番。そこに芽ねぎがあるのが面白い。一流の鮨屋が使うという土壌栽培の最高の芽ねぎはねぎ特有の刺激臭がなく、シャキシャキとした食感。魚は三重や和歌山などの産地から届くものが中心、と素材にも森さんらしいこだわりが込められている。 スペシャリテは『淡海地鶏のスモーク』。本来は鶏を丸ごと一羽使うが、おひとり様には小ポーションも大丈夫。また豚肉も一緒に食べたいなど、その日の気分に合わせてわがままにも臨機応変に対応してくれる。 名店仕込みの料理と接客。そのバランスが絶妙。 森さんは東京の『ヴィノッキオ』、『アルポルト』、NYの『バスタパスタ』など、イタリアンの全盛時代に名を連ねる名店を経験した。そこで学んだのは調理だけではない。時代の空気や偉大なシェフたちのフィロソフィー、ホールに立ってゲストを楽しませる術も知った。さらに調理師学校の先生も務めるなど、幅広い活躍ぶりが『京都ネーゼ』に生かされている。 『京都ネーゼ』という店名は、なんと店をオープンする5年も前から決めていたという。その由来を聞いてみると、 「覚えやすい方がいいかなと思って」とあっけらかんと笑った。 ゲストが楽しんでくれるなら”できることは喜んで”。何度も通えばそれだけ自分にフィットしてくるのが『京都ネーゼ』だ。あぁ、なんて幸せなイタリアンなのだろう!
岡本 ジュン