なぜ東北の火山分布は「すき間だらけ」なのか…その謎を解く、驚きの「マグマの熱い指」仮説
マントルウェッジ内の上昇流
沈み込み帯の火山を形成するには、高温のマントルを深部から持ち上げる上昇流が不可欠です。東北日本の不思議な火山分布の鍵を握るのは、この上昇流(マントルウェッジ内の対流)にちがいありません。 先に述べたとおり、プレートの沈み込みにともなってマントルウェッジの下部が下向きに引きずられ、その反動としてマントルウェッジ内部で上昇流が生じます。プレートの上面はおおよそ均質で極端な凸凹はないと考えられるので、上昇流はその面に沿って一様に発生するとされていました。すなわち、マントルウェッジ内の上昇流は面状に生じるというイメージです。 しかしこの考えは、東北日本の火山フロントがすき間だらけで、むしろ東西に広がっている事実と合いません。この点を重視したわれわれは、沈み込み帯の火山をつくるマントル上昇流について、新しい仮説を提案しました。 われわれは、上昇流が面状ではなく、分岐して柱状になっていると考えました(図3)。その様子が人間の手の指のように見えることから、この考えを「ホットフィンガー仮説」と名づけました。 マントルウェッジ内で10本の指状の上昇流が生じており、それらと東北日本の10個の火山グループとが対応しているというわけです。この仮説を採用すると、なぜ上昇流が柱(指)状になるのかという新たな謎が出てきますが、もっとも直感的な説明は、次のとおりです。 面状に沈み込むプレートはリソスフェアで、上昇する上盤側の物質はアセノスフェアです。また上昇流は、比較的低温のマントルウェッジに高温のアセノスフェアを無理矢理貫入させるイメージです。アセノスフェアはリソスフェアに比べて高温でやわらかい岩石ですから、リソスフェアのように面状で上昇してくることができません。部分的に上昇した結果、抵抗を減らすために指状になるのです。 また、それぞれの指が小規模な対流に対応しているという考えも提案されています。冷たい物質の中に熱い物質が挟まれるという構造自体が不安定で、対流を起こしているというわけです。上昇する熱いアセノスフェア(ホットフィンガー)の内部で、二次的に小規模な対流が生じているのかもしれません。 ---------- 『大陸の誕生 地球進化の謎を解くマグマ研究最前線』 ----------
田村 芳彦(海洋研究開発機構(JAMSTEC))