なぜ東北の火山分布は「すき間だらけ」なのか…その謎を解く、驚きの「マグマの熱い指」仮説
火山フロント
日本列島の火山列は、海溝と平行に並んでいます。東北日本では、日本海溝から200~300kmほど離れたところに火山列があり、それよりも海溝に近い領域にはまったく火山がありません。この領域の地下では、マグマ活動が起きていないのです。 このように沈み込み帯では、海溝から一定の距離を置いて、つまり海溝と平行な火山列が形成されます。これを指して、1960年に神戸大学(当時)の杉村新教授が「火山フロント(火山前線)」と呼びました。 少々わき道にそれますが、新しい用語を2つ導入しておきます。海溝と火山フロントの間の(火山がない)領域を「前弧(ぜんこ)」といい、火山フロントから見て海溝とは反対側の領域を「背弧(はいこ)」といいます。定義上、前弧と背弧は必ずセットで形成されます。それぞれに特徴的な地形などが知られていることもあり、頻出する地学用語です。 火山フロントの話に戻ります。沈み込み帯の火山フロントの場所を決めているのは、海溝からの距離ではなく、その下に沈み込んだスラブ(上面)の深さです。どの沈み込み帯でもスラブが地下100km付近まで沈み込んだところの直上に火山フロントができる、というのが正しい理解です(図1)。 この深さ以上で、岩石の融解をうながす2つの条件(加水と減圧)がそろいます。スラブの(蛇紋石の)脱水反応とマントルウェッジへの水の供給に関しては、前弧領域(つまり100kmより浅部)でも起こっていることが知られています。その証拠に、前弧の海底に蛇紋岩海山が形成されていることがあります。これは、スラブから水を受け取った上盤側のマントル(かんらん岩)が蛇紋岩化してできた地形です。この領域では、マントルに水が加わっても、マントルの温度が低すぎて溶けることはなく、蛇紋岩となってしまうのです。
沈み込み帯の火山列はすき間だらけ
ここまで、もっともらしい説明をしてきましたが、火山フロントである東北地方の火山列をよく見ると、不思議なことに気づきます。おおざっぱに見れば、たしかに海溝と平行に火山が並んでいるのですが、ところどころに火山のない領域があります。また、火山がある領域自体も、やや東西に広がりをもっています。 日本の東北地方の火山分布をくわしく観察してみましょう。 以前は、東北地方には那須火山帯と鳥海火山帯という2つの火山列があるとされていました(すくなくとも私が子どものころには、そう教えられたものです)。2つの大きな火山列が南北にのびていて、どの火山もいずれかの火山列に属している、というのが従来の考えでした。 しかしよく見ると、火山が多く分布している領域とそうでもない領域とが混在しています。南北に(日本海溝と平行に)のびているはずの火山列はすき間だらけです。「2つの火山列」という見方を忘れて東北地方の火山分布を眺めると、異なる特徴に気づきます。火山の「空白域」と「密集域」が見えてくるのです。 距離にして30km以上、火山のない空白域が9ヵ所あり、それらを境にして10個の火山グループが形成されています(図2)。隣り合う火山グループ間の距離はほぼ均等です。空白域は東西にのびています。この領域は、東北地方の太平洋側と日本海側をつなぐ交通の要衝になっています。 まとめると、東北地方の火山は南北方向に分布しているというより、東西に分布しているととらえるべきでしょう。東西にのびる火山列が10本、一定の間隔を空けて南北に並んでいるのです。東北日本の火山は、海溝と平行な2つの列をつくっているのではなく、海溝と平行な大きな列の中にそれと直交する小規模な列がいくつもある、ととらえられます。 つまり、沈み込み帯の火山列をよく見ると、海溝からの距離(つまりプレート上面の深さ)が等しいのに、火山がある場所とない場所があるというわけです。北米のカスケードやアリューシャンの火山においても火山の分布に空白域が存在しているので、沈み込み帯で共通の現象と考えられます。