「老後4000万円問題」に抱く強烈な違和感…資金運用で国が提案しない「おすすめ商品」の正体
まるで金融機関の「営業パンフ」
本日のコラムは、先週6月8日(土)に放送された筆者出演番組『正義のミカタ 特別編! おっかねーお金の話SP! 』(大阪朝日放送)のコーナー「4000万円必要!? 摘んでも積んでも足りない老後資金の怪!」での話題を取り上げよう。このコーナーのプレゼンターは、金融機関の方でリモート参加だった。 【写真】【完全予測】「次の総選挙」で落選する「裏ガネ議員」全実名を大公開 かつて老後には2000万円が必要といわれた。金融庁金融審議会が作成し2019年6月に公表された報告書であったが、賢明にも当時の麻生太郎金融担当相は受け取らなかった。 あまり知られていないが、役所の審議会報告書は大臣諮問に基づき行われるが、この報告書はその手続きをミスしていた。 金融担当大臣である麻生氏から金融審議会への諮問は、2016年4月19日で、その内容は「市場・取引所を巡る諸問題に関する検討」だった。実際、諮問から半年後の2016年12月20日に報告書が出ている。その内容は、まさに市場・取引所問題の検討であり、今回の報告書にある長期投資の話は見られない。 その後、2018年9月21日、「市場ワーキング・グループ」が再開された。再スタートであるのは、その日、遠藤金融庁長官の挨拶でもわかる。通常、この種の「ワーキング・グループ」では、金融庁長官が出席することはないが、別の課題での議論なので金融庁長官が挨拶したのだ。そこで、2018年1月にスタートしたNISAなどを通じた長期・積立・分散投資が言及されている。そのあとの金融庁事務局資料は「高齢社会における金融サービスのあり方について」である。 その後の審議は、金融機関による各社の「営業パンフレット」の紹介ばかりのようだった。
4000万円の「根拠」
こうした経緯もあり、麻生大臣としては、形式的に自分の諮問に答えていないので、受け取りを拒否した。 金融機関は公的年金では不十分なので、金融商品の購入を勧めるのは、営業の常であった。こうして、世にも奇妙な報告書が作られた。 この2000万円はいわく付きのものだが、番組では「今では4000万円が必要」と金融機関の「営業」全開だった。プレゼンターは番組初参加(リモート)だったので、露骨に批判することは避けたが、少し釘を刺しておいた。 4000万円の根拠であるが、2000万円報告書の当時のインフレ率が0.6%であるが、仮に3.5%になったらという前提で試算すると、4000万円も必要になるという。 番組の性格上、事前に話を聞けない。さらに、プレゼンターはオンライン参加なので事前に話もできなかった。筆者は、番組でのプレゼンターの説明中に、こうした試算での一般的な前提であるインフレ率2%(これは日銀のインフレ目標でもあり、政府試算などでもしばしば採用されるもの)で、2000万円がどのくらい膨らむかを計算してみた。2800万円だったが、番組では丸めて3000万円といった。 出演者のタレントの中間淳太さんが、いい質問をした。公的年金はインフレでどうなるのか、という質問だった。公的年金にはマクロ経済スライドがあるので、ある程度インフレに連動して年金額が改定される。ただし、完全には連動せずインフレ時でも物価の上昇幅ほど年金額は上がらない。