『光る君へ』道長役・柄本佑インタビュー。「最高権力者になっても、人間性は変わらない」
まひろは、道長にとって情けなさを唯一出せる存在
―吉高さん演じるまひろはこれから『源氏物語』を書き始めます。その姿を見て、柄本さん自身もより道長という役に入り込める感覚はありますか? 柄本:もちろんありますが、まひろとの関係値がちょっと変わっていきますよね。離れている時間がふたりの思いを強める……みたいなこととはまた違って。一条天皇と彰子のことに悩みに悩んで、一条天皇に献上すべく新たな物語を執筆してくれと頼みにいく。いままで築いてきたソウルメイトのような信頼関係とはまた違ったものが生まれていき、それがより強固になっているという印象があります。 ―道長は、まひろの文学的才能や、まひろ自身に心惹かれながらも、『源氏物語』を政治的に利用するという二つの感情を持つことになると思いますが、その塩梅はどう演じられていますか? 柄本:もちろん政治のほうを向いてはいるんですが、いま思うと、先ほど言ったように、自分の家族の幸せを考えてお願いしにいったのではと思っています。 道長にとって、ほかの人に見せられない顔や情けなさを唯一出せるのがまひろさんだと思っています。どこかすがるような思いで、一条天皇が彰子さまのところに行ってくれないんだと。何とかしてくれないかと言えるのはまひろしかいない。そういう弱いところをしっかり出せて、本当に頼れるのはまひろしかいなんじゃないかなと思っています。 だから、道長はいま考えてみると非常に「パパ」をしていますよね(笑)。そこから政治につながっていると思っているので、臆することなく、振り切っていったほうがいい気がしています。 ―定子が亡くなり彰子が中宮になって、道長は最高権力者としての座を盤石にします。思いは違うとしても、やっていることは父の兼家とあまり変わらない、という見方もできるのではと思います。道長のなかで父を意識している部分はあるんでしょうか? 柄本:父と同じことはしたくないんだと道長が言う場面がいくつか出てきます。結果として父と同じようなことをしてしまっていることと、同じことをしたくないという思いの整合性をどう保つかというところだと思いますが、そこは、正直なところすべてが終わってみないとわからないと思っています。 非常に根は深いと思いますが、ただ、同じことをしていても気持ちや出発点が違うという感じかもしれません。民のために良き政をする、そのために同じことをしているが、父は家のためにやっていた、と。出発点が違うんだというところで(思いと行動の)整合性を担保しているのかなと思います。まだまだ道長の旅路は途上なので、最終的なところは、旅路が落ち着いたときに見えてくるものがあるのではと思って、僕自身もとても楽しみにしていますし、注目してほしいと思います。
インタビュー・テキスト by 廣田一馬、生田綾