大阪の名門・履正社の主将として2019年の甲子園で日本一となった野口海音。23歳の若さで引退を決めたが記憶に残るのは最大のライバルとの死闘だった photograph by (L)JIJI PRESS、(R)Fumi Sawai

　いまから5年前、2019年の夏の甲子園。現ヤクルトの奥川恭伸を擁する星稜を破って、初の日本一に輝いたのが履正社(大阪)だった。激戦区の大阪で大阪桐蔭と「二強」と呼ばれる超名門だが、意外にも夏の頂点に立ったのはこの時だけだ。そんな“伝説の世代”の主将が今年、ユニフォームを脱いだ。なぜ彼は23歳という若さで、野球から離れることを決断したのか。なぜ、一度もプロ志望届を出さなかったのか――。その胸の内には、様々な葛藤があった。《NumebrWebインタビュー全3回の1回目/つづきを読む》 【変わりすぎ写真】「太ッ、二の腕エグすぎ…！」甲子園で優勝決定タイムリーを放った履正社時代の野口さんのムキムキフィジカルと「こんなにホッソリ…！」な23歳の現在…大阪桐蔭「最強世代」との死闘も写真で見る 「この前、ガスの点検に行ってきたんです。大規模施設内にたくさんあるお店の点検なんですけど。今は覚えることばかりですけど、少しずつ慣れてきました」 　清々しい声で現状を明かすのが、社会人野球・大阪ガスで今年5年目となる野口海音(みのん)だ。

名門・履正社で「初の甲子園制覇」の主将

　野口は履正社高校時代、正捕手、そして主将としてチームをまとめ、19年夏の甲子園で同校初の全国制覇を成し遂げた。 　4番には井上広大(阪神)、今秋のドラフト会議でソフトバンクから6位指名を受けた岩崎峻典(東洋大)らそうそうたるメンバーが揃うチームで、強いリーダーシップを発揮。日本一となった甲子園でも、6試合で24打数8安打7打点。打率は.333。決勝の星稜戦では8回に奥川恭伸(ヤクルト)の151キロを中前に運び、決勝打となる適時打も放っている。 　中学3年の夏にU15の日本代表選手に選ばれ、侍ジャパンの主将として国際大会も経験し、履正社でも1年夏からベンチ入り。華やかな球歴を積み重ねてきた右の巧打者が、社会人5年目となる今シーズン後に現役引退を表明した。 「今はもう、すっきりしています。後悔も全くないです」 　12月1日付けで大阪ガスネットワーク南部事業部設備保安チームに異動し、出先でのガス点検など仕事は現場作業が中心だ。大阪ガスに入社以降、練習着、もしくはユニフォームを着ることが多かったが、作業服に身を包んだ姿はどことなく初々しく映る。 「社会人野球って、大会で会社一丸となって応援をしてもらって、その中で自分たちも会社を背負って戦うじゃないですか。初めてあの大声援を聞いた時、甲子園よりすごいって思いました。あの独特の緊張感はなかなか味わえないです。会社に行っても社内の方に“頑張ってね”って声を掛けてもらえますし、“応援されているんやな”ってものすごく感じるんです」 　社会人でも日本一を2度、経験した。 「この5年間は社会人野球のレベルの高さを見ることが出来て、色んな人とも出会えて。野球をやっていたから出会えた人もたくさんいますし、普通なら話す機会のないかなり年上の人とも繋がることができましたし、プラスな経験ばかりでした」