二重スリット実験を解説。/執筆:野村泰紀
最後に、一つの電子が同時に2つのスリットを通ったなどとは信じられない人が、2重スリットの後ろに光源を置いて、その光が上下どちらで散乱されるかで電子がどちらのスリットを通ったか確認できるようにして実験したらどうなるか見てみましょう。 この場合、光が上で散乱された、つまり電子が上のスリットを通った場合の電子のスクリーン上での分布は上側にピークし、光が下で散乱された、つまり電子が下のスリットを通った場合の分布は下側にピークします。つまり、2重スリットの後ろに光源を置いて電子がどちらのスリットを通ったかが確認できる状態にした途端、干渉縞は消えてしまうことになります(ちなみに干渉縞が消えるためには、電子がどちらのスリットを通ったか実際に人間が確認する必要はありません。どちらを通ったかが原理的に分かるようにした途端、干渉縞はなくなります)。
このように、量子力学では電子が異なる軌跡をとるような並行世界が存在すると考えなければ説明できない現象が起こります。そして、私たちも電子や陽子などの「素粒子」でできている以上、私たちの状態─すなわち見た目や考えていることなど─や世界のその他のことに関しても、異なる並行世界が存在すると考える方が自然だということになるのです。 最終回となる次回では、これら「並行世界」を実際にテクノロジーとして利用する試み、特に量子コンピューターと呼ばれる技術、について解説していこうと思います。
プロフィール
野村泰紀 のむら・やすのり|物理学者。1974年神奈川県生まれ。理学博士取得後渡米し、現在はカリフォルニア大学バークレー校教授。直近の著書に、YouTubeチャンネル『ReHacQ─リハック─』での配信を元にして書籍化した著書『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門』がある。 text: Yasunori Nomura, edit: Momoko Ikeda
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