<挑む・センバツ2023東邦>強さの源流/中 2019年・平成最後の優勝 鍛錬重ね「勝者」自負 /愛知
平成最初のセンバツ優勝から30年たった2019年の第91回選抜高校野球大会。東邦は再び紫紺の優勝旗を手にしていた。前年夏の県大会後に発足した新チームは投打共に力がなく「近年の東邦で最弱」。課題山積のチームだったが、選手たちはそのレッテルをバネに厳しい練習に励み、成果に結びつけた。 「自分が上達して周りを引っ張っていこうと思った。キャプテンとして背中で示したかった」。現在プロ野球中日の内野手で、東邦時代はエースで主将だった石川昂弥さん(21)はそう振り返る。 新チーム結成当時、エース格となる投手がおらず、長打力がある選手も石川さんを含め数人。当時の監督だった森田泰弘・総監督(63)は「まずは投手力を」と投げられる選手を全員ブルペンに呼んだ。 1人ずつ投げさせ、投球をじっくり見た。「向いていない選手を順番に外していくと、最後に残ったのが石川だった」。ストレートのキレ、球速、制球力――。「育てればハイレベルになる素質を持っていた」という。 石川さんをエースに指名したのは9月の県大会まであと1カ月と迫ったころ。「ほとんどぶっつけ本番状態。でも石川の高い能力のおかげで試合を重ねるごとに投手として成長した」 攻撃面でも「打ったことのない球がないよう、レベルの高いボールを打たせたい」と約200種類の球種を登録することができ、球速やコースなども自在に変更できるAI(人工知能)搭載のピッチングマシンで徹底的に鍛えた。森田総監督は「どんな球が来ても滞空時間が短いライナーになるよう打て」と言い続けた。 迎えた東海大会の中京学院大中京(岐阜)との準決勝。相手投手の球を打ちあぐね、常に劣勢を強いられる試合展開だったが、選手たちは冷静だった。石川さんは「自分の球が打たれても、練習を重ねてきた野手が打ち返してくれる。そういう練習をしてきたから」。5点を追う九回裏、4連打などで同点に追いついた。 延長十回表に1点を勝ち越されたその裏の攻撃で、1死一、三塁から、左翼線適時二塁打で、サヨナラ勝ちを決めた。森田総監督は「これなら全国の舞台で戦える」と自信をつけた。もう「最弱」ではなくなっていた。 弱さと向き合い鍛錬を重ねてきた選手たちは19年春のセンバツ切符をつかんだ。冬の厳しい練習も選手一丸となって取り組んだ。開幕直前、森田総監督は選手たちに言った。「同世代でお前たちがナンバーワンだ」。最弱だと自覚していた選手たちはいつの間にか「最強」に生まれ変わっていた。 たどり着いたセンバツの決勝。森田総監督は石川さんに「今日はホームラン打って完封できるな」と尋ねた。石川選手はまっすぐな目で「できます」と答えた。その言葉通り、石川さんはセンバツ決勝で史上2人目となる2本塁打を放ち、投げては3安打完封。堂々たる優勝を飾った。 この優勝の翌年、森田総監督は教え子でコーチを務めていた山田祐輔監督に後を託した。森田総監督は言う。「東邦は何度もピンチを勝利に変えてきた。その先輩たちの姿を見ている選手の中に自然と勝者のプライドが根付く」【森田采花】