マンガ大賞2025 ノミネート作品をマンガ系ライター4人が勝手に大予想
「面白いと思ったマンガを、その時、誰かに薦めたい!」そんな気持ちから書店員をはじめとする有志が集まり、2008年に誕生した「マンガ大賞」。今年で18回目を迎えるこの賞は、もはやマンガ業界には欠かせないアワードだ。賞の選考員は、実行委員が直接声をかけたマンガ好きばかりで、書店員をはじめとするさまざまな職業の人たちが手弁当でこの賞を支えているという。 【画像】昨年度のマンガ大賞では、泥ノ田犬彦「君と宇宙を歩くために」が大賞を受賞した コミックナタリーでは1月下旬に控えたノミネート発表の前に、4人のマンガライターにノミネート10作品を、「マンガ大賞」の傾向を分析しつつ予想してもらった。共通で挙がっている作品もあれば、各人の好みによる推し作品も。1年間の話題作を振り返りながら、それぞれの予想を楽しんでほしい。 構成 / 坂本恵 ※寄稿者を50音順に掲載 ■ マンガ大賞とは? ・選考対象は前年の1月1日から12月31日に出版された単行本のうち、最大巻数が8巻までの作品。選考対象には電子書籍も含まれる。 ・1次選考では各選考委員が「人にぜひ薦めたいと思う作品を5作品」を選出。 ・2次選考では1次選考の結果から得票数10位までの作品がノミネートされ、選考委員はそのすべてを読み、トップ3を選ぶ。 ・その結果を集計し、「マンガ大賞」が決定する。 ■ 粟生こずえのノミネート予想作品は…… ・「路傍のフジイ」鍋倉夫(小学館) ・「ありす、宇宙までも」売野機子(小学館) ・「どくだみの花咲くころ」城戸志保(講談社) ・「じゃあ、あんたが作ってみろよ」谷口菜津子(ぶんか社) ・「ふつうの軽音部」出内テツオ / クワハリ(集英社) ・「ドカ食いダイスキ!もちづきさん」まるよのかもめ(白泉社) ・「恋とか夢とかてんてんてん」世良田波波(マガジンハウス) ・「ボールアンドチェイン」南Q太(マガジンハウス) ・「スーパースターを唄って。」薄場圭(小学館) ・「女の園の星」和山やま(祥伝社) 紙の高騰もなんのその、Web上のコミックサイトはこれからまだまだ増えそうで、今やマンガ界は過去に類を見ない活況を呈している。いや、もうマンガを掘るのが忙しくてしょうがありません。「今、面白いマンガは?」という質問は広すぎて答えづらいから、この「マンガ大賞」の選考基準に「誰かに薦めたい!」とあるのは、わかりやすくて実にいい。 このところの人気作からまざまざと感じるのは〈多様性〉というキーワードだ。なんて言うと、誰かの施策にまんまと踊らされているようで少々居心地が悪くもあるが、時代がそれを求めていることは確かだろう。マンガに描かれる〈ちょっと変わった〉登場人物が持ち合わせるのは、極端に戯画化された個性ではない。 象徴的な例として挙げたいのが「女の園の星」だ。それにしても「マンガ大賞」での和山やま作品の強いこと。なんと刊行作品すべてがランクインしている! 「女の園の星」は新刊が出るごとにランクインしているので、今年もノミネートの可能性十分と見た。同一の賞で同じ作品が繰り返しランクインするのは珍しいが、それだけ素直に隣の人に薦めたい作品だという証だろう。一言で説明するなら「地味メガネの女子校教師の日常コメディ」なのだが──そう聞いた人が「ふーん、こういう感じのマンガなんでしょ?」と想像する斜め上を行く、きめ細かな人間描写から生まれる低温の笑いがクセになる。話が面白いというより、むしろすべてのコマが面白い。このジワジワくる感じは小学生男子の物語である「どくだみの花咲くころ」にも共通するものを感じるのだ。ちなみに、近年シスターフッドの物語が増えているが、今後はブラザーフッドものも盛り上がりそう。それこそ昨年の大賞作「君と宇宙を歩くために」もそう分類していいかもしれない。 決して華やかなスポットを浴びているわけではない──そんな人間を詳らかに描写し、長所も短所もよくわからないところも見せてくれる作品は、〈人に出会い、理解する〉喜びと幸福感を与えてくれる。人間一人の内面をがっつり描けば、それだけでめちゃくちゃドラマティック。「路傍のフジイ」と「恋とか夢とかてんてんてん」も、そんなことを思わせる作品だ。読めば読むほど主人公を好きになっていく。そういえば「ありす、宇宙までも」の主人公の、容姿に恵まれていることが〈生きづらさ〉の一因になっているという設定はとても効果的に機能している。パートナーと二人三脚でさまざまな課題点をクリアしながら大きい目標に向かっていく爽快感が心地よい。 しかし、現代において、マンガこそが一番社会を如実に反映させているメディアなのでは。ジェンダーロールに材を取った「ボールアンドチェイン」「じゃあ、あんたが作ってみろよ」は今だからこそ生まれたマンガといえよう。貧困を生きるラッパーの友情を描く「スーパースターを唄って」も今日的なリアルと示唆に満ちている。 さて、一応「お薦めしたい(しやすい)」作品を中心に選んできたので、割とマイルドなラインナップになった気がする。しかし、「ドカ食いダイスキ!もちづきさん」はなんといおうか──まったり日常系のはずなのにブッ飛んでいるからすごい。この二面性、考えようによっては怖い? 無邪気に楽しむもよし、背景を深読みするもよし。各々の読み方が試される〈謎〉をはらんだ不思議な作品である。 はずせない大本命は「ふつうの軽音部」。「次にくるマンガ大賞2024」Webマンガ部門1位、「このマンガがすごい!2025」オトコ編2位の大注目作。練習だけではない人間関係のあれこれ、バンドという名の社会を鮮烈に描出。かわいらしく親しみやすい絵柄にして、音が伝わってくる迫力も随一だ! □ 粟生こずえ 編集者・ライター・作家。「このマンガがすごい!」(宝島社)、「CREA夜ふかしマンガ大賞」(文藝春秋)に立ち上げより参加。マンガレビュー、マンガ家インタビュー多数。著書にショートミステリ「3分間サバイバル」シリーズ(あかね書房)、「5分でスカッとする結末 日本一周ナゾトキ珍道中」(講談社)など。SNSはすべて「粟生こずえ」名義。 ■ 小田真琴のノミネート予想作品は…… ・「どくだみの花咲くころ」城戸志保(講談社) ・「平和の国の島崎へ」瀬下猛 / 濱田轟天(講談社) ・「ふつうの軽音部」出内テツオ / クワハリ(集英社) ・「寿々木君のていねいな生活」ふじもとゆうき(白泉社) ・「女の園の星」和山やま(祥伝社) ・「恋とか夢とかてんてんてん」世良田波波(マガジンハウス) ・「ありす、宇宙までも」売野機子(小学館) ・「カグラバチ」外薗健(集英社) ・「ザ・キンクス」榎本俊二(講談社) ・「レタイトナイト」香山哲(トゥーヴァージンズ) ここ数年の「マンガ大賞」というと月刊アフタヌーン(講談社)のイメージが強い。実際に2020年の「ブルーピリオド」、2022年の「ダーウィン事変」、そして昨年の「君と宇宙を歩くために」と、直近の5年間で3作品が1位を獲得している。近年のアフタヌーン誌の充実ぶりを鑑みても、ここはひとつ最近作では抜群に面白い「どくだみの花咲くころ」が間違いなくノミネートされてくるものと予想しつつ、1位の「本命」としたい。 前年から継続してノミネートされる作品も多いが、昨年3位の「平和の国の島崎へ」は、最新刊が第8巻以下の作品を対象とする「マンガ大賞」においては、今年がラストチャンスとなる可能性が高い。現時点で7巻まで刊行されており、ここ2年は年3巻ペースで刊行されているからだ。物語の展開としても大変に盛り上がっている頃合いなので、今一度推しておきたいと考える投票者は多いのではなかろうか。ここでは「対抗」としておく。同様の理由により昨年2位の荒川弘「黄泉のツガイ」(スクウェア・エニックス)と5位の平井大橋 「ダイヤモンドの功罪」(集英社)も再ノミネートされる可能性がある。 連続ノミネートということでいうと、和山やま先生の作品はなんと2020年より5年連続でトップ10入りを果たしている。2021年に至っては「カラオケ行こ!」(KADOKAWA)が3位、「女の園の星」が7位と、2作品が同時にランクインしていた。当然今年も入ってくるものと考え、「女の園の星」も有力候補として推しておく。4巻もメガネ店のエピソードが最高であった。 サブカル系の作品に目配りがきいているところも「マンガ大賞」の特徴だ。全方向型の「このマンガがすごい!」(宝島社)と通好みの「このマンガを読め!」(フリースタイル)の中間を行くようなバランス感覚を、一読者として非常に好ましく感じる。今回私が候補として挙げた中では「恋とか夢とかてんてんてん」を推す投票者は多いのではなかろうか。売野機子先生のマイノリティや個性への温かな目線が光る「ありす、宇宙までも」にもがんばってほしい。多くの読者にリーチし得る大きなポテンシャルを感じる作品だ。個人的には「ザ・キンクス」や「レタイトナイト」もノミネートされてほしいと願うが、1位を獲るのは難しいのではないか。 ちなみに「恋とか夢とかてんてんてん」と「ザ・キンクス」はともに前述の2つのランキングでトップ10に入っており、ほかにも、「ふつうの軽音部」、「どくだみの花咲くころ」、南Q太「ボールアンドチェイン」(マガジンハウス)がWでランクインしている。メジャー路線の「ふつうの軽音部」が「このマンガを読め!」で2位となったのは意外だったが、「マンガ大賞」でも上位に進出してくる可能性は高く、「単穴」にしておきたいと思う。 王道系では「カグラバチ」の勢いを無視することは難しい。堀越耕平「僕のヒーローアカデミア」と芥見下々「呪術廻戦」が完結した週刊少年ジャンプ(集英社)において、次世代を担うと目されている超目玉作品だ。連載開始から1年少々で単行本の累計発行部数が130万部を突破し、「次にくるマンガ大賞 2024」コミックス部門では1位に輝いた。余談だがうちの9歳の息子もすっかり夢中になっており、アニメ化されるのを心待ちにしているようである。 個人的なイチオシは「第15回ananマンガ大賞」に輝いた「寿々木君のていねいな生活」。お菓子作りを愛する同志として応援せざるを得ない。「マンガ大賞」とも相性は悪くないと思うので、ノミネートされることを願いつつ、少々の贔屓も込めて1位の「大穴」とする。 勝手に1位予想 ◎「どくだみの花咲くころ」 ◯「平和の国の島崎へ」 ▲「ふつうの軽音部」 ☆「寿々木君のていねいな生活」 □ 小田真琴 女子マンガ研究家。Web、雑誌などで、おもに大人の女性向けのマンガを選書・紹介しつつ、マンガ家のインタビュー記事も執筆。年末年始に読んで面白かったマンガは「叶姉妹のファビュラス・ワールドMAX」(KADOKAWA)。 ・小田真琴(@makoto_oda) | X ・女子マンガの手帖 ■ 小林聖のノミネート予想作品は…… ・「ふつうの軽音部」出内テツオ / クワハリ(集英社) ・「ザ・キンクス」榎本俊二(講談社) ・「路傍のフジイ」鍋倉夫(小学館) ・「どくだみの花咲くころ」城戸志保(講談社) ・「ありす、宇宙までも」売野機子(小学館) ・「ルリドラゴン」眞藤雅興(集英社) ・「いつか死ぬなら絵を売ってから」ぱらり(秋田書店) ・「若草同盟」新田章(マガジンハウス) ・「きみの絶滅する前に」我孫子楽人 / 後谷戸隆(講談社) ・「雷鳴りて春来たる」烏目松(トゥーヴァージンズ) 「マンガ大賞」は今やマンガ界を代表する影響力を持つアワードであり、比較的ノンジャンルで王道のラインナップの賞という印象です。それでもいくらか傾向めいたものやポイントを考えるなら以下のようなものでしょうか。 ①全年齢的に薦めやすく、読み応えのある作品 「マンガ大賞」全体に関して大きな傾向があるとしたら、ポジティブな作品が強いという点。過去の大賞作品やノミネート作品を見ても、絶対ではないですが、どちらかというと全年齢的におすすめしやすい作品が人気を集めやすいのかなと感じています。また、何も考えずに楽しめる作品より、ある程度読み応えのある作品が好まれる傾向もあると思います。 ②その年を代表する勢いのある作品 厳格な基準があるわけではないですが、バズに限らず、店頭での動きや盛り上がりなど「今年これを入れないわけにはいかない」というタイトルはあり、そこはやはりはずしません。 ③レギュレーションラストイヤー 「マンガ大賞」には「前年末で単行本8巻までの作品」というレギュレーションがあります。そのため、コメントを見ていても「今年が最後のチャンス」というのが後押し材料になることもしばしばあります。逆に「1巻が出たばかりでまだチャンスはあるからもう少し様子を見よう」となるケースもあるように感じます。 ④ヒットのきっかけがほしい作品 アワードは「その年を振り返る」役割もあれば、「まだ十分知られていない作品にヒットのきっかけを与える」役割もあります。「マンガ大賞」はマンガに興味はあるけれどそれほどディープではない人に面白いマンガを伝える、既刊8巻までと十分に広まっていない比較的若い作品に限定するというコンセプトを見ても、後者の意思が強いアワードです。放っておいてもヒットするだろうという作品やメディアミックスなどが進んだ作品より、もうひとまわり大きいヒットに期待したい作品に票が集まりやすい傾向です。 このあたりを踏まえたうえで、勢いのある作品を考えていくと、やはり鉄板級だろうというのは「ふつうの軽音部」。「次にくるマンガ大賞2024」Webマンガ部門第1位をはじめ、「このマンガがすごい!」オトコ編・フリースタイル「このマンガを読め」ともに2位と、毛色の違う賞レースで軒並み名前が挙がっています。刊行ペース的におそらく今年が最初で最後ということもあり、ノミネートはほぼ間違いないでしょう。 近いイメージなのが「ザ・キンクス」。大ベテラン・榎本俊二の作品ですが、「榎本俊二って下ネタギャグでしょ?」というイメージがある人にも「いや、違うんだ!」と伝えたくなる感じも含め、名前が挙がりそう。 手に取るきっかけを作りたいという意識が強く出そうな作品としては「路傍のフジイ」が筆頭でしょうか。実際に読まないと魅力が伝わりづらく、面白さをとらえにくい作品だからこそ「読むきっかけをあげたい」という心理が働きそう。刊行2年目となって巻も進み、作品の全体像が見えてきたのも「入り頃」という印象です。同じく読んでみないとわからないけれど唯一無二の読後感がある奇妙な友情ドラマ「どくだみの花咲くころ」も注目作です。 現在2巻までで大ブレイク前夜の雰囲気があるのが「ありす、宇宙までも」。優しく、勇気が出る内容は「マンガ大賞」の傾向にもフィットします。 1巻刊行後長期休載となったことでブレイクタイミングを一度逃した感のある「ルリドラゴン」は、昨年1年半ぶりに連載が再開。新刊刊行もあり、今こそ改めて推したいという心理が働いてもおかしくないと思いチョイスしました。 寓話的で鮮烈な印象を残す「きみの絶滅する前に」は、単巻だからこそ今年入れておきたい人が多い気がします。 入り頃でいうと「いつか死ぬなら絵を売ってから」も。芸術というジャンルを商業面から見せてくれる新しさに、サクセスストーリー的な熱さ、現在5巻までというタイミングも加味して今年入ってきそうなタイトルです。 新進レーベルの注目作としては「若草同盟」。2023年にスタートしたマガジンハウスのWebサイト・SHUROの作品ですが、同サイトは注目作が多く勢いを感じます。 最後は予想というよりほぼ個人的な願望ですが、「雷鳴りて春来たる」を挙げておきます。連載媒体の路草も注目作が多いレーベルですが、フレッシュでグッとくる1作。売れてほしいです。 □ 小林聖 1981年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。インタビューやレビューなどマンガを専門に執筆。長年Twitter上で年間マンガアワード「俺マン」運営なども行っていた。 ・小林聖(Frog/蛙)@ネルヤ(@frog88) / X ■ ちゃんめいのノミネート予想作品は…… ・「ボールアンドチェイン」南Q太(マガジンハウス) ・「スーパースターを唄って。」薄場圭(小学館) ・「恋とか夢とかてんてんてん」世良田波波(マガジンハウス) ・「ありす、宇宙までも。」売野機子(小学館) ・「路傍のフジイ」鍋倉夫(小学館) ・「夢なし先生の進路指導」笠原真樹(小学館) ・「この世は戦う価値がある」こだまはつみ(小学館) ・「ねずみの初恋」大瀬戸陸(講談社) ・「ザ・キンクス」榎本俊二(講談社) ・「みちかとまり」田島列島(講談社) 書店員を中心とした各界のマンガ好きの選考員によって選ばれる「マンガ大賞」。選考員には、利害関係が発生しそうなマンガ関係者(作家・編集者)を除外している点、そして本賞の運営は無報酬で行われていることから、公正性が高いというか、「これ最高だから読んでくれ!」というマンガ好きなら一度は発したことがあるような、あのなんともいえない熱量によって成り立っている賞のように思います。 とはいえ選考員の特性なのか、近年のノミネート作を振り返ると、社会において透明化され続けてきた存在に光を当てるような物語や、一筋縄ではいかない複雑な心模様を描いた物語など、“人”を深く真摯に描いた作品がノミネートされる傾向にあると感じます。そう考えると、世の中の普通や常識といった自分を縛るものに抗う意欲作「ボールアンドチェイン」や、果てしない悲しみや怒りをリリックに込めて這い上がる、凄まじい生命力に満ちた「スーパースターを唄って。」、圧倒的な表現力で鬱屈した日常と暴走する片思いを描いた「恋とか夢とかてんてんてん」あたりは欠かせないと予想。 また、“人”から派生して、人生を変える出会いや、人が次なる一歩を踏み出す瞬間の尊さを見事に描いた作品たちにも注目が集まっていそうです。例えば、学びによって広がる、自分の無限の可能性を教えてくれる「ありす、宇宙までも。」。何気ない日常の中にある輝きを再発見する「路傍のフジイ」。そして、夢を持つことの尊さだけではなく残酷さも包み隠さず描いた「夢なし先生の進路指導」や、どん底から自分の人生を再構築していく「この世は戦う価値がある」などもノミネートされるのではないかと期待しています。 一方で、やはり各界のマンガ好きが選考員を務めているだけあって、その年の話題作(むやみに話題作を追うのではなくかなり厳選している印象)に加えて、作家さん推しという選定基準もあるように感じます。 話題作でいうと、まずはヤンマガ史上最速でヒットを記録した「ねずみの初恋」。なんの躊躇いもなく人を殺し続けてきた殺し屋の少女が一般人の男性に恋をするというお話なのですが、殺し屋としてのハード&バイオレンスな展開と初々しすぎる恋愛描写の甘酸っぱさ。このとてつもない振れ幅と感情の揺らぎが、目を見張るほど鮮烈に描かれています。2024年に話題になった作品の中でも本作は頭ひとつ抜けていると思います。 その流れでいくと「ザ・キンクス」も欠かせない! デビュー35年目となるギャグマンガ界の鬼才・榎本俊二先生が手がける本作は、とある地方都市に暮らす4人家族・錦久家(きんくけ)の日常を描いたホームコメディ。義実家へ顔を出したり、娘の三者面談に参加したり、物語の入り口は至って平凡な日常なのですが、気づけばあっという間に予想だにしない世界へと連れていかれてしまう。セリフやアングルといったマンガ表現も含めて驚きと疾走感に溢れている作品です。 そして、作家さん推しの観点でノミネート作を予想する前に、少しだけ詳しく説明したいのですが。例えば、和山やま先生は2020年には「夢中さ、きみに。」が、その後は2021年に「カラオケ行こ!」と「女の園の星」、後者に関しては2022年、2023年と連続で、さらに2024年には「ファミレス行こ。」がノミネートされています。ほかにも、2023年に大賞を受賞した「これ描いて死ね」のとよ田みのる先生は、2019年の時点で「金剛寺さんは面倒臭い」がノミネートされているなど。つまり、大好きな作家さんを長く応援し続け、作品をじっくりと愛読している選考員の方がいるのでは?と推測します。 となると、2021年に「水は海に向かって流れる」で4位にノミネートされた田島列島先生の最新作「みちかとまり」は期待大! 竹藪に生えていたみちかと、それを見つけたまり。みちかは人間か神になるか決まっていない不思議な存在で、まりはそれを決めることができる。日本古来の神道をベースにしたようなファンタジーで、人間とこの世のものではない何かの境界線で繰り広げられる青春や恋愛模様……。もはや過去にノミネートされたことがあるという事実関係なく、新たな田島列島ワールドを見せてくれる同作は、選考員の心も惹きつけるのではないでしょうか。 □ ちゃんめい マンガライター。マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか作家への取材を行う。宝島社「このマンガがすごい!2024、2025」にてアンケート参加、その他トークイベント、雑誌のマンガ特集にも出演。 ・ちゃんめい | マンガだいすき📚(@meicojp24) / X