『小さな恋のうた』から『ゴールデンカムイ』『ブルーピリオド』まで!進化し続ける俳優、眞栄田郷敦のストイックさに迫る
山口つばさによる累計部数700万部を超える人気コミックを実写映画化した『ブルーピリオド』(公開中)。公開前から「熱量高いストーリーに泣ける!」と前評判も上々の本作で、情熱を武器に“好きなこと”に真剣に向き合う男子高校生を熱演したのが眞栄田郷敦だ。そこで今回は映画初主演作『彼方の閃光』(22)に続いて主人公をひたむきに演じた眞栄田のこれまでに迫ってみよう。 【写真を見る】『ブルーピリオド』の八虎と同じく、一心不乱に絵画のレッスンに取り組んだという眞栄田郷敦 ■『小さな恋のうた』で俳優デビューし、着実にドラマ、映画への出演を重ねてきた 2000年にアメリカで生まれ、千葉真一を父、新田真剣佑を兄に持つ眞栄田は「MONGOL800」の人気曲をモチーフとする青春映画『小さな恋のうた』(19)で俳優デビュー。演じたのは佐野勇斗扮する主人公の友人役で、撮影前には俳優の大先輩である千葉が本読みに付き合い、演技指導をしたり撮影現場に顔を出したりしてくれたこともあったという。「控えめで少しシャイなところが父親とそっくり」という彼は、偉大な功績を残した父親から多大な影響を受けたとのちに語っている。 このデビュー作の公開後、ほどなくして眞栄田は大泉洋主演のドラマ「ノーサイド・ゲーム」にラガーマン役で登場。さらに年末には国民的スーパースターと恋に落ちる女子高校生の幼なじみ役を演じた『午前0時、キスしに来てよ』(19)も公開され、ヒロイン(橋本環奈)をバックハグするエモいシーンが話題となるなど俳優として好調なスタートを切っている。 ■信念の男、三ツ谷隆役がハマった「東京リベンジャーズ」シリーズ そして眞栄田は着実に出演を重ねていくのだが、代表作の一つとなっているのは「東京リベンジャーズ」シリーズだろう。和久井健によるコミック「東京卍リベンジャーズ」を原作とするこの作品は、人生唯一の彼女だった橘日向(今田美桜)の命を救うために主人公の花垣武道(北村匠海)が過去へとタイムリープする青春SFアクション。眞栄田は半グレ集団「東京卍會(通称:東卍(トーマン)」の創設メンバーの1人である三ツ谷隆を演じた。東卍の弐番隊隊長である三ツ谷は手先が器用で服飾のセンスがあり、総長のマイキー(吉沢亮)を守り抜くことを誓う信念の男。黒い隊服をキリっと着こなし、マイキーを支え続ける三ツ谷をクールに演じた彼の男気ある風情には惚れ惚れさせられた。 ■長澤まさみと共演のドラマ「エルピス」で若手ディレクターを熱演 このほかにも、木村拓哉が神奈川県警察学校教官の風間公親に扮するドラマシリーズ「教場II」で仲間内のトラブルから復讐に走って退校処分になる訓練生を演じたかと思えば、初主演連続ドラマ「カナカナ」では、海辺の町を舞台に不思議な力を持つ遠縁の5歳の少女の面倒を見る元ヤンキーのマサ役をコミカルに好演したことも。 さらに社会派ドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」では、長澤まさみ扮する第一線への復帰をねらう女子アナウンサーのバディとなる若手ディレクター役にもトライ!メディア業界の荒波にもまれながらジャーナリストとしての意識に目覚めていく青年役を熱演して、お茶の間を魅了した。 ■『ゴールデンカムイ』尾形百之助役のミステリアスさも体現 また、眞栄田の役者としての幅の広さを実感するという点では、野田サトルの大ヒットコミックを実写化した『ゴールデンカムイ』(24)での陸軍の凄腕スナイパー、尾形百之助役も印象深い。極寒の北海道を舞台に強奪されたアイヌの金塊をめぐる三つ巴の争奪バトルが壮大なスケールで繰り広げられる本作。主人公である“不死身の杉元”こと杉元佐一(山崎賢人)を執拗に追跡する尾形の不気味なたたずまいや、真意の見えないミステリアスさにゾクゾクさせられた。もともと原作漫画のファンだったという眞栄田は映像化不可能と言われていたこの作品を実写化することに驚きつつも、人気キャラクターの1人を演じることが楽しみでならなかったという。 ■主人公の情熱、葛藤を完全に憑依させた『ブルーピリオド』 このように役者として近年ますます存在感を高めてきた眞栄田の最新出演映画が『ブルーピリオド』だ。流されるままソツなく器用に生きてきた男子高校生の矢口八虎は、ある1枚の絵をきっかけに美術の世界へと足を踏み入れる。そして国内最難関の東京藝術大学への進学を目指して邁進するのだが、壁にぶち当たりながらも絵画への情熱だけを頼りに自分だけの絵画スタイルをつかみ取っていく。仲間との友情、進路への迷いなど、悩み、葛藤しながらも“好きなこと”に真っ向から向き合う姿が胸を打つ感動の青春ドラマとなっている。 八虎を演じるにあたって眞栄田は撮影の半年前から絵画を猛練習し、撮影でも吹替えなしで自ら筆をとった。彼はのちに「八虎と一緒に絵を始め、そして一緒に苦しんだ」と心血を注いで臨んだ撮影期間について振り返っているが、絵画練習では指導を行った講師も舌を巻くほどの集中力を発揮し、その姿は八虎そのものだったという。 これまでも役柄の人生をたどるような役作りを大切にしてきたという眞栄田。八虎を演じるにあたっては、金髪であることの意味まで掘り下げて考えていくことで1人の人間として肉付けしていった。そんなストイックな役作りにおいて、かつてプロのサックス奏者になることを夢見て藝大受験したこともあるという自身の経験が役柄を理解する一助になったことは想像に難くない。眞栄田は八虎との共通項を「“自分だけにしかできない表現”を求めて努力する人」だと語っている。 眞栄田はその謙虚な姿勢と絶え間ない努力で様々なキャラクターに息吹を与えてきた。すでに役者としてのセンスとあふれる魅力を兼ね備えながらも、30歳からが俳優としての本格的なスタートだと見据える彼が、今後どんなサプライズを披露してくれるのかいまから期待して待ちたい。 文/足立美由紀 ※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記