【虎に翼】昨年2月に伊藤沙莉は“予言”していた まもなく最終回で「寅子ロス」の声
原爆訴訟の描写でも際立った「女性」被爆者へのまなざし
原爆訴訟では、原告の被爆者・吉田ミキ(入山法子)が上京し、翌日に予定された当事者尋問の打ち合わせのために弁護団事務所を訪れたシーンが印象的だった。被爆者自身が法廷に立って証言する重要な局面だ。美しいミキの横顔には、首すじあたりを中心に原爆でのケロイドが大きく残っている。 事務所に宿泊することになり、山田よね(土居志央梨)とこんな会話を交わす場面がある。 「あなたきれいね。凛としている」 思わぬ言葉に戸惑うよねは、そっけなく言葉を返す。 「どうも…」 ミキは言葉を続ける。 「私、美人コンテストで優勝したこともあるの。自分で言っちゃうけど、誰もが振り返るほどの美人だった…。今日、上野駅に降り立った時にそれを思い出したわ。振り返る人の顔つきは違ったけれどね。そういう、かわいそうな女の私がしゃべれば同情を買えるってことでしょ? ま、でも他の誰かにこの役を押しつけるのも気が引けるしね。しかたないわ…」 そう語るミキの目前に、壁に掲げられた憲法14条の条文が映る。性別や人種などによって差別されないという「無差別平等の原則」を定めた条文だ。ミキはつぶやく。 「差別されない…。どういう意味なのかしらね」 よねは、法廷で証言するミキの覚悟に揺らぎがあることを見てとり、当事者尋問を取り止める決断をする。 「やめましょう。無理することはない。声を上げた女にこの社会は容赦なく石を投げてくる。傷つかないなんて無理だ」 しかし、ミキは訴える。 「でも私、伝えたいの。聞いてほしいのよ。こんなに苦しくってつらいって…」 結局、当事者尋問は中止になり、代わって原告代理人が手紙を代読した。法廷にこそ立たなかったものの、劇中では代読する弁護士の声と姿が次第にミキ自身のそれへと変わっていく演出があった。 「娘が産んだ際、原爆で乳腺が焼けて乳をやれず…。夫は私が三度目の流産をした後、家を出ていきました。ただ人並みに扱われて、穏やかに暮らしたい。それだけです。助けを求める相手は国以外に誰がいるのでしょうか」 その尋問を、裁判官として見つめる寅子。被爆者自身の言葉が手紙で代読された原爆訴訟は8年がかりで結審した。寅子ら裁判官は、合議で「原告の請求棄却」つまり、被告である国が勝訴との判決文を書いた。原告側に、国に対する請求権は認められない。法律論としてこの結論を変えられない以上、結果は最初からわかっているような裁判だった。 だが、主文言い渡しの前に読み上げられた判決理由で「原爆投下は国際法違反」と断じ、世界で初めてこれを違法とした。のちに世界で注目を集めたこの判決は、被爆者への国の支援を法制化する根拠にもなった。 結論は変えられなくても「判例」という形で裁判官が歴史に爪跡を残したといえる。後世につないでいく、そうした歴史をしっかり伝えていこうという、ドラマ制作者の世界観が伝わってくる。