尹錫悦大統領を擁護する韓国保守派の牙城「嶺南地方」の論理 澤田克己
野党関係者は「弾劾賛成を公言した嶺南選出の与党若手議員が地元で『裏切り者』扱いされて大変な目にあっている」と語る。前述の中堅議員も「この時代に戒厳令なんてありえない話だ」と批判的なのだが、一方で「穏健な考えの人はわざわざデモをしたり、声高に意見を言ったりしない。ソウル都心での弾劾反対集会に自腹を切って地方から参加するような過激な人の方が目立つし、彼らは党の熱心な支持者だから気を使わざるをえない」と苦しげだ。 韓国の国会は解散がなく、次の選挙は28年4月だ。それまで3年ほどあるから、世論の逆風もその時まで続くとは考えづらい。それに、嶺南地方は保守派の牙城だから公認さえ取れれば当選する確率が高い。ならば今は熱心な支持者から反発を買わないことを優先させようという議員心理が働いていると指摘される。 捜査の進展などで新たな事実が次々と明らかになっており、それに応じて与党内の空気が変わっていく可能性はある。ただ過激な支持者の動向に引きずられる状況は、少なくとも当面は続きそうだ。 澤田克己(さわだ・かつみ) 毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数。