足跡だけ見つかる 研究者泣かせアテノサウルスは何者?ー足跡化石の謎(中)
足跡を残した主:トラック・メーカーの謎
さて、ペンシルバニアン前期から見つかる膨大な数の足跡化石。私の古生物のクラスの一環として、生徒を連れて行くと、2―3時間の間に何十という数の足跡化石が見つかる。しかしこれだけ豊富な足跡化石だが、「研究者泣かせ」にもなる。これはどういうわけだ? じつは足跡化石だけ目の前にしても、具体的に「誰(=どの動物)のものなのか?」足跡(track)を直接残したトラック・メーカー(track maker)の正体をつきとめるのは、非常に難しいという現実に直面する。多くの場合、不可能でさえある。 閑話休題。タイムマシンでも使って、直接足跡が作られた瞬間を目撃しない限り、太古の昔に起きた出来事など、今となっては「はっきり確かめようがない」だろう。(論理的な筋道として、この命題を化石研究者はいつも頭の中にいれているものだ。)そして、特に古い時代のものほど、多くの種は、現在見られる種と比べても、その姿は大きく異なる。すんでいた環境や食物のタイプなどの生活様式も、我々の創造力を大きく超えたものさえいたと想像される。(古生物研究者にとってイマジネーションは欠かせないと私は考えている。) そのため、一連の石炭紀の時代に残された多くの足跡 ── その多くが「足跡化石の標本だけ」にもとづいて、命名及び記載されたものになる。 例えばアラバマから見つかる石炭紀の足跡化石群の一つに、アテノサウルス(Attenosaurus)がある。下記の写真でも分かるように、このアテノサウルスの手や足の平は、極端に大きい(人間の手の平とほぼ同じくらいの大きさだろうか)。その他ほとんどの種は、基本的に1―2センチくらいのサイズだ(わずかに人間の親指の爪くらいのサイズだ)。 サイズだけ比べると、このアテノサウルスは非常に異質だ。まるで粒餡のつまったおはぎの中に間違えて入れられた栗の実のように。さてこのアテノサウルスとは、はたして何者なのか?