光岡明（くまもと文学・歴史館提供）

　熊本県唯一の直木賞作家・光岡明（1932～2004年）の没後20年に合わせた企画展が、くまもと文学・歴史館（熊本市中央区出水）で開かれている。自筆原稿や創作メモなど73点を通して、「特別公務員」を名乗り、県の文化発展にも尽くした作家の足跡をたどる構成だ。（中村由加里） 【写真】光岡との思い出を語る吉井さんと宮尾さん

　光岡は熊本市出身。熊本日日新聞記者として働きながら小説を書き、芥川賞に4度のノミネート後、1982年に旧海軍の掃海隊を舞台にした「機雷」で直木賞を受賞。「千里眼千鶴子」「前に立つ空」など近代日本のさまざまな断面を描く小説を残した。85～95年には文学・歴史館の前身である熊本近代文学館の初代館長を務め、県ゆかりの文人の顕彰にも尽くした。

　展示されている創作メモやノートからは光岡が執筆にあたり、資料収集だけでなく、関係者への直接取材を重視していたことがわかる。「草と草との距離」の主人公の父親のモデルとなる会社経営者には、家族構成から子どもの頃の思い出まで細かく尋ねている。「機雷」執筆にあたっては、機雷掃海に従事した4人の座談会を催し、5冊の取材ノートを残している。

遺品や自筆の原稿が並ぶ展示室

　直木賞の副賞である懐中時計や万年筆、鉛筆などの愛用品、また館長として企画した展覧会のチラシなども展示されている。

　9月28日には、光岡とゆかりのあった人が登壇したシンポジウムも開かれた。

　宮尾尚・県立劇場理事長は、光岡の文学館館長就任から約3年にわたって仕事をともにした。「（文化作品を）何でも公平に扱えばいいのではなく、いいものはいいという見識を持つことが大切、と語っていた」と振り返った。

　水俣市の作家、吉井恵璃子さんは、「（光岡）先生は自分は決して表に出ず、県内の小さな文化に光を当ててきた」と評価。「作家として、指導者として尊敬している。少しでも近づきたい」と述べた。

　「没後20年　直木賞作家・光岡明の仕事」展は、11月4日まで。火曜休館。入館無料。問い合わせは文学・歴史館（096・384・5000）へ。