カクテル「煙に巻く」とは? サプライズでもてなすバー、ウェスティンホテル東京
■燻製の煙とウイスキー、香りのハーモニーが見事
すっきりした薄いグラスには、丸氷と琥珀(こはく)色のカクテル。そこに前沢さんが優雅な手つきで小さな燻製(くんせい)器を乗せ、桜のスモークチップに火を付けます。グラスの中に満ちていく、ふんわりとした白い煙。それはまるでミニチュアの雲海のよう。そっと器をはずせば、ゆらめく煙と薫香が立ち上る、なんとも優雅で楽しいサプライズが。 「煙に巻く」はウイスキーベースのカクテルで、人気の高いラフロイグ10年に黒糖リキュール、梅酒、麹(こうじ)ドリンクを加えます。口に含んだ瞬間、煙の薫香とスモーキーなウイスキーの風味が一体となり、黒糖の甘さが追いかけてきます。梅酒と麹の酸が加わって、すっきりした飲みやすさにも驚くばかり。 「煙に巻く」はエスカリエ開業の目玉として掲げる7つのシグネチャーカクテルの1つ。他に「エビスノ思ヒ出」「ピニャコラーダ2.0」などが並ぶこの7種は、日本でミクソロジー(フルーツや野菜、スパイスなどを用いたカクテル)を広めたといわれる著名なバーテンダー、後閑信吾さんがエスカリエのために考案したものです。 配合するリキュールなどは素材や製法にこだわっているので、作る準備に1日ほどかかるカクテルもあります。そこで、あらかじめカクテルを作り置きしておく「プレミックス」のスタイルで、グラスにはボトルから注ぎます。「こうすることでバーテンダーがお客様との対話の時間を増やせるのです。メニュー表の説明文は最小限にして、コミュニケーションの中でストーリーや素材についてお伝えすることを大切にしています」 煙をくゆらせながら登場し、味わうほどにウイスキーの裏に隠れた梅酒や黒糖の表情が立ち現れる――。まとったヴェールを徐々に脱いで、神髄をあらわにしていく様はまさにマジック。そんなプレゼンも味わいも、心地よい驚きに酔いしれるバー体験を約束してくれます。 文:THE NIKKEI MAGAZINE 編集長 松本和佳 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。