「ミレーナ」は避妊具なのに、生理も楽になるって本当?
――ミレーナに対して、「人工的に生理を止めるのはどうなのか?」と疑問視する声もあると聞きました。宋さんはどのように考えていますか? 宋:おそらく“人工的”という言葉の裏には「自然がいちばん」という考え方があると思うのですが、そもそも“自然”とは何か? と、考えてもらいたいです。 初潮を迎える年齢は若年化しています。江戸時代には15歳頃だったといわれていますが、その後、食生活は豊かになり栄養状態が改善され、現在は12歳頃と早まっています。 また、女性の晩婚化や出産に対する意識などが変化し、合計特殊出生率(1人の女性が一生の内に産む子どもの数の指標)は減少しました。1947年は4.54でしたが、2023年は1.20になっています。妊娠中は月経が止まるので、出産回数が減ると、その分月経の回数は増えます。 つまり、現代の女性は、昔と比べて経験する生理の回数が圧倒的に多くなっているんです。江戸時代と比べると9~10倍ほどで、その結果、不妊症、子宮内膜症など女性特有の疾患が増えているといわれています。 そんな状況でも何もしないでいることが“自然”といえるのでしょうか? ですので「自然だ、人工的だ」という話ではなくて、自身が健康に過ごすために、どんな方法があるのか、メリット、デメリットなども踏まえた上で、いろいろな選択肢から選んでほしいなと思います。
女性の積極的避妊のハードルが低くなることに期待
――ピルやミレーナをはじめ、女性が積極的に避妊することに対して、まだまだハードルが高いように感じます。 宋:そうですね。ただ、オンライン診療によるピル処方が可能になってから、ピルを目的に受診される女性は増えていますよ。しかし、やはり直接診察でないと、その人がピルに適しているか分からないことも多く、リスクが高いため、私はあまり推奨していません。 ――オンライン診療でピルを処方してもらう人が増えた理由は、「顔を合わせるのは気まずいから」ということでしょうか? 宋:それ以上に、「忙しくて時間がない」ということが大きいと思います。私のクリニックの場合、通常の診療受付時間は16時までで、木曜日だけ18時30分まで延長しているのですが、その延長された時間帯からすぐに予約が埋まるんです。 ――働いていると「平日に医療機関に行く」というのは難しいですよね……。 宋:本当にそう思います。「生理休暇」という制度がありますが、ネーミングもあって、まだまだ使いにくいですよね。じゃあ、「婦人科を受診するために有給休暇を使う」というのももったいない。 もっとフレキシブルに、医療機関に通いやすい社会に変わっていったらいいなと思います。自分がとりたいタイミングで2時間程度の休憩がとれるなど、就労環境の改善、見直しが必要ですね。 男性の中にも健康診断で要再検査と診断されているけど、忙しくて結局ほったらかし、という方も多いはずですよ。 ――生理による症状は個人差が大きく、男性だけでなく、症状が軽い女性にとっても相互理解が難しいと思います。生理による苦痛をみんなが理解できるよう、一人一人にできることはなんでしょうか。 宋:ここ数年で「生理」はメディアにおいて、テーマとして取り上げられる機会が増え、話題にしやすい雰囲気になっているとは思いますが、まだまだ十分とはいえないでしょう。特に学校教育の中で、生理について、男性も女性も学ぶ機会が必要だと感じています。