地方創生として「フェス」は有効か? 福島フェス『LIVE AZUMA』主催者に訊く
10月19~20日、福島県福島市・あづま総合運動公園にて、音楽フェス『LIVE AZUMA』が開催される。地方でフェスを開催する意義について、『LIVE AZUMA』の主催者である、福島テレビ・佐藤将一と、クリエイティブマンプロダクション・坂口和義に訊いた。 【写真】昨年の『LIVE AZUMA』の様子 ―なぜ、福島にてフェスを開催しようと思ったのでしょうか? 佐藤:福島はなかなか大きい箱もなく、アーティストが全国ツアーをまわる際もどうしても仙台あたりになります。もともと私自身、音楽やライブが大好きで、高校時代は鈍行で福島から仙台まで行って、たまに終電を逃して親に怒られる(笑)、ということをやっていました。ライブハウスやホールはあるのですが、アリーナクラスのアーティストはなかなか福島に来ることができない。それが福島市民にとってはもどかしいところなんです。しかも東京にいると「今日何しようかな」と思ったときに選択肢がたくさんありますが、福島ではなかなかそうはいかない。選択肢が増えればいいなといった想いからも、地元でフェスができたら面白いんじゃないかと思って、学生時代からお付き合いのあるクリエイティブマンプロダクションの坂口さんとお話させていただいたことが始まりです。 ―地方における文化体験の機会創出は、非常に重要なトピックだと私も思っています。福島の現状については、どのように捉えていらっしゃいますか? 佐藤:「東京2020オリンピック」のとき、『LIVE AZUMA』のメインステージになっているあづま球場が野球とソフトボールの会場になったんですね。ただ、野球はたった1試合しかなかったですし、ソフトボールも数試合だけで終わってしまいました。それには、やはり「もったいないな」と感じるところもあって。しかも復興五輪と言いつつも、結局は無観客だったので、みんなモヤッとした感じで終わってしまったんです。世界的なイベントで使われる会場を、もっと上手く活用できたらなという想いもありました。 ―復興についても、『LIVE AZUMA』を開催するときに意識はされていましたか? 佐藤:そうですね。福島でフェスをやりたいという想いが強くなったきっかけのひとつでした。ただ、震災があったあとの数年間はどちらかというと「福島頑張れ」「みんなで頑張るぞ」といった動きがあったと思うのですが、今はそういったことよりも、「福島や東北の面白さを伝えていこう」という側面で取り組めるようになったのかなと思います。 ―「震災で失ったものを取り戻そう」というよりも、福島や東北のポジティブな面を発信していこうという想いが今は強まっていると。 佐藤:おっしゃる通りです。もともと福島は、内に秘めるものはあっても、あまり表立って主張しないような県民性もあるせいか、PRが控えめだとも言われていて。でも震災以降、福島の人のなかに「もっと福島を盛り上げよう」といった危機意識が生まれて、発信を頑張ろうとする人や、音楽に限らずイベントを開催する人、福島で事業を起こす人などが増えている印象があります。 ―ここからはクリエイティブマンプロダクション・坂口さんへの質問になりますが、国内フェスの現状に対して、今どういった見解をお持ちですか? 坂口:私は2000年代にクリエイティブマンプロダクションに入ったのですが、そのときはまだフェスというものが多くはなかったんですよ。最近は、毎週どこかでフェスが開催されるくらいの数になりました。そのなかで、アーティストさんが意思を持って開催するフェスが増えてきたということが、まずひとつあると思います。あとは、地方ごとの特色をいかして、地場の方々と一緒に作り上げていくフェスが前よりも増えていると感じます。音楽フェスをやるうえでは、「音楽をやりたい」「このミュージシャンを見てもらいたい」という気持ちが根底にあることが大事で、そういった信条が強い人たちが地域の方々としっかり、お互い心地いい形で結びつくと、特に際立ったフェスになっていくと感じていますね。フェスを続けていくことは簡単ではなく、しっかりと想いを持って、粘り強くやっているものが続いていると思います。 ―インバウンドについては、どのような現状があるといえるでしょうか? 坂口:私が携わらせてもらっている『SUMMER SONIC』でいうと、大体1割が海外からのオーディエンスです。『LIVE AZUMA』には昨年、台湾を代表する9m88に出演してもらいました。個人的には『LIVE AZUMA』にもっと海外のアーティストが出演して、それを目当てで来場するインバウンドのお客さんにも福島のよさをわかってもらえると、全員がさらにハッピーになるのではないかなと思いますね。『SUMMER SONIC』の経験から感じているのは、福島には食・お酒・温泉・民芸品といった海外の方々が好きになるコンテンツやカルチャーがたくさんあるということで。いずれは『SUMMER SONIC』のようにインバウンドがさらに増えて、世界中で「福島って素敵なところだな」みたいになると最高だなと思っています。 ―地方創生として「フェス」の可能性については、どのように感じていらっしゃいますか? 坂口:間違いなく大きな意味があると思いますし、さらなる可能性も感じています。開催日の週末は、人の流れも含めてエリアが活性化していることを肌で感じるんですよね。最初に佐藤さんがおっしゃったように、音楽文化も育っていくと思います。今年も福島に縁のある方がご出演者として多くいらっしゃいますし、今後福島出身のアーティストにとって『LIVE AZUMA』がひとつの目標になればいいなと思っています。いずれ『LIVE AZUMA』を見てミュージシャンになりました、という人たちが出てきたら嬉しい限りですね。実は近年、他県の方々からも「フェスをやりたい」というお問い合わせを何件もいただいているんです。それは『LIVE AZUMA』が、始まったばかりながらもひとつの地方創生フェスのモデルケースになっているからで。こういった取り組み自体は、とてもいいスキームだなと思います。 佐藤:今回、郡山市にある音楽系の専門学校の先生から「学生を関わらせてもらえないか」という連絡をいただいたんです。その先生曰く、生徒たちが東京に就職面接を受けにいって、「これまでの学生生活で何やってきましたか?」と聞かれても、東京の学生ほど経験がないと。あと地元にこういった大きなイベントがあると、生徒たちが誇りを持って地元に就職する選択肢がもしかしたら増えるんじゃないかともおっしゃってくださったんですよね。なので、やはりそういった側面はあると思います。