消費者と作り手つなぎ食品ロス削減、口コミで利用者伸ばすエリア限定ECサイト パナソニックHDが藤沢市で運営
9月上旬、藤沢駅から車で40分ほどの農園ではツルムラサキや白ナスが大きく育っていた。にこにこ農園(神奈川県藤沢市)の井上宏輝さん(46)は「配達や袋詰めを気にせず、野菜作りに集中できるようになった」と笑顔で話す。「ハックツ!」では出品者の負担軽減のため、サイトの運営者側が出品者まで赴き、商品を回収する。井上さんは「運搬コストの軽減につながった」と喜ぶ。 背景には、藤沢市で農作物を販売する生産者の特徴がある。ほとんどが小規模農家で、これまではスーパーマーケットではなく直販所をメインに展開。収穫した野菜の陳列や商品の補充を自前で担う必要があり、負担になっていたという。 にこにこ農園はこれまで、近所のレストランや住民などがメインの顧客だったといい、「配達が忙しいと十分な野菜作りができないこともあった」と振り返る。農園が住宅街から少し離れたところにあるため、「野菜を回収してくれるのは大助かり」とにっこり。にこにこ農園は年間100種類ほどの有機野菜を育てており、「こだわっている部分や野菜作りにかける思いを、サイトやパンフレットを通じて消費者に伝えられるのはうれしい」話した。
▽地元の有機野菜を気軽に購入 「ハックツ!」を利用した会社員の稲垣乃理子さん(52)は、「農家がこだわった野菜を食べたいと思っていた」と話す。これまで有機野菜に関心があったが、農家を直接訪ねて野菜を購入するのはハードルが高いと思っていた。「地元の有機野菜を食べられるのはうれしい」とはにかむ。今後も継続して利用する予定で、「スーパーマーケットでは自分が使いやすいものを買うので、野菜の詰め合わせセットなど、何が入っているか分からないところを楽しみたい」と笑顔を浮かべた。 ▽課題は価格と品ぞろえ 地域活性化につながる一手として有効に見えるが、浸透に向けては課題もある。価格と種類だ。小規模な農家や飲食店が主な出品者のため、スーパーマーケットなど大型店舗に比べると価格は割高で、品物の種類も少ないという。利用者が1回の注文で1週間分の食料を購入することは難しく、スーパーマーケットなどと併せて使う必要がある。 受け取りスポットが現在は1カ所しかなく、時間も午後2~5時と限られており、サービスの拡充を求める声も多いという。スポットの増設や受け取れる曜日を増やすなどし、利用者数と出品者数をそれぞれ増やしていきたいとしている。
現在の利用者数は500人程度。サイトを運営する芦澤さんは「エシカル(倫理的)な消費を求めている人に限られている」と指摘する。収益性を上げるには「少し価格が高くても購入したい人」を増やしていくことが必要だ。芦澤さんは「パナソニックはこれまで家電を作って家事の大変さを軽減してきた。今度は暮らしをアップデートしようという段階に入った。大量生産、大量消費ではなく、必要なものを必要な分だけ消費する、持続可能な生活を提案していきたい」と話した。