「スター・ウォーズ」meets『グーニーズ』!「スケルトン・クルー」から溢れ出るアンブリンのエッセンス
「スター・ウォーズ」の世界観はそのままに、勇敢な少年少女たちの友情と成長を描く、壮大なスペース・アドベンチャー「スター・ウォーズ:スケルトン・クルー」が、ディズニープラスで独占配信中だ。本作で特筆すべきは、主要登場人物が子どもたちであること、いわばキッズストーリーであり、製作総指揮や脚本を務めたショーランナーのジョン・ワッツは、本作が1980年代のアンブリン作品から影響を受けていることを公言している。 【写真を見る】大冒険に付き物の危険すぎる難敵も!恐ろしい海賊たちが彼らに襲いかかる 「アンブリン」とはスティーヴン・スピルバーグが1981年に設立した自身の製作プロダクション「アンブリン・エンタテイメント」のことで、『E.T.』(82)をはじめ多くのヒット作を放ってきた。これらの作品を子どものころに浴びるように観てきたワッツが影響を受けるのは必然だ。では、具体的にどんな点に影響を受けたのか?本稿ではそのエッセンスについて考えてみたい。 ■新たな「スター・ウォーズ」を創造するのは、子どものころにアンブリンから影響を受けた世代 本作の時代背景は銀河帝国崩壊後、すなわち『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還 (エピソード6)』(83)のあとで、同じドラマシリーズでは「マンダロリアン」と同時期の物語となっている。平和な惑星に住むウィム(ラビ・カボット=コニャーズ)、ファーン(ライアン・キーラ・アームストロング)、KB(キリアナ・クラッター)、ニール(ロバート・ティモシー・スミス)の4人の少年少女は、偶然発見した宇宙船が暴走したことで、広大で危険な銀河に迷い込んでしまう。道中でドロイドのSM-33やフォースを操る“謎の男”ジョッド(ジュード・ロウ)と出会い、故郷への帰還を目指す壮大な冒険に繰り広げていく。 本題に入る前に、基本的なことをおさらいしておこう。まずはスピルバーグと「スター・ウォーズ」の生みの親ジョージ・ルーカスの深いつながり。売れっ子になる前から親友だった2人が、「インディ・ジョーンズ」シリーズで初めてタッグを組んだのは有名だ。しかもスピルバーグは「スター・ウォーズ」に関わっていないにもかかわらず、同作から印税を受け取っている。というのも、1977年、『スター・ウォーズ』(※改題後タイトル『スター・ウォーズ /新たなる希望 (エピソード4)』)はヒットしないだろうという絶望感にとらわれていたペシミストのルーカスは、スピルバーグと取引をする。それはスピルバーグが当時製作していた『未知との遭遇』(77)の印税の一部を『スター・ウォーズ』と交換するということ。『スター・ウォーズ』が絶対にヒットすると信じていたスピルバーグはこの提案に乗る。彼の読みは当たった、というわけだ。 いずれにしても、SFや冒険活劇を愛する2人が、子ども心を持ったクリエイターであることは間違いない。ルーカスの製作作品をみても「スター・ウォーズ」シリーズはもちろん、『ラビリンス 魔王の迷宮』(86)や『ウィロー』(88)といったワクワクするようなアドベンチャー作品が多いし、スピルバーグのアンブリン作品も同様だ。もちろん「インディ・ジョーンズ」シリーズも然り。 そんな彼らの遺伝子を受け継いだのが、ワッツである。なにしろ、出世作となったサスペンス『コップ・カー』(15)は子どもを主人公にしていたこともあり、“アンブリン製作のスリラーのよう”と評され、自身もアンブリンからの影響を認めた。続くMCU版「スパイダーマン」三部作(17、19、21)が、『ブレックファスト・クラブ』(85)をはじめとするジョン・ヒューズ製作の1980年代青春映画から影響を受けたことは有名だ。彼のなかの童心を構成する作品には、もちろん「スター・ウォーズ」シリーズもある。「機会があれば、この世界観のなかで新たなストーリーを描いてみたいと思っていた」、と彼は語る。 ちなみに、ワッツと同世代のクリエイターにはアンブリンからの影響を公言している監督は少なくない。例えば、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」をクリエイトしたダファー兄弟(マット&ロス・ダファー)は好例。世代はひとまわり上になるが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (エピソード7)』(15)を監督したJ・J・エイブラムスもその一人で、スピルバーグと同様に子どものころから8mmで映画を撮り、『SUPER 8 スーパーエイト』(11)ではその時の体験をスピルバーグの製作の下でファンタジードラマ化している。いずれにしても、子どものころにアンブリンから影響を受けた世代のクリエイターが、現在のシーンを牽引していると言っても過言ではない。 ■子どもと大人の絆や駆け引き…アンブリン作品同様に大人も子どもも楽しめる! 前振りが長くなったが、「スター・ウォーズ:スケルトン・クルー」とアンブリンの関係をみていこう。まず多くの人がピンとくるのはた『グーニーズ』(85)。将来の見えない、窮屈で退屈な日常からはみ出してしまった子どもたちが、未知の世界で冒険を繰り広げるのは、まさにそのもの。男子のウィムとニール、女子のファーンとKBは性別という理由だけで対立したりもするが、それぞれの特技を活かして難局を乗り切る。そんな子どもらしい生命力も『グーニーズ』との共通点だ。 ワッツ自身も本作からの強い影響を公言している。『グーニーズ』の監督リチャード・ドナーは2021年に世を去ったが、その直前に面会したワッツは「スケルトン・クルー」のために、子役を選ぶ際の助言を求めたという。ドナーは言った“キャラクターの精神が憑依するほどの子役を探せ”――その結果選ばれたのが、4人の子役。演技のうえでは、生き生きしている時は本当に楽しそうだし、ブルーな時は声をかけてあげたくなる。まさに愛すべきキャラクターたちと言えるだろう。 異星生物との交流という点では、『E.T.』を彷彿させるものがある。そもそもウィムは人間だが、親友のニールは象のような顔をしたエイリアンだ。また、シリーズの前半では理由が明らかにされていないが、ウィムはシングルファーザーに育てられており、母親がいない。シングルマザーに育てられていた『E.T.』の主人公の少年と同様に、そこには深いなにかがあるのかもしれない。 子どもたちには彼らを導くメンターが必要だ。「スケルトン・クルー」では、それがジュード・ロウ演じるジョッドということになる。しかし、彼が正しい道を示してくれるかどうかは非常に怪しい。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)の主人公の高校生マーティにとってメンターは科学者ドクだったが、このキャラもかなりクレージーで、どこまで信じてよいのかわからない部分があった。子どもと大人の絆や駆け引きもまた、アンブリン的な要素と言えるだろう。 そのほかにも、少々怖い未知の体験という点では『ポルターガイスト』(81)や『グレムリン』(84)に通じ、4人組の冒険という点では『ファンダンゴ』(85)、宇宙船のメカニック的な魅力は『インナースペース』(87)などなど、アンブリン作品を連想させる要素には事欠かない。エピソードが進めばその要素はさらに出てくるだろう。現段階で言えることは限られているが、これだけははっきりしている。アンブリン作品がそうであったように、大人も子どもも楽しめるのが「スター・ウォーズ:スケルトン・クルー」なのだ。 文/相馬学