トランプ氏が衝撃的な呼び方でハリス氏を呼んだと報道。無知であることをバラしてしまう結果に【米大統領選2024】
アメリカ大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ氏が9月、同党の寄付者のために開いた夕食会で、民主党の対立候補カマラ・ハリス副大統領のことを、侮辱的で今では使われなくなった言葉で呼んだと報じられている。 【画像】ダウン症のきょうだいとカメラに笑顔を見せる筆者(右) 「(ハリス氏は)知恵遅れだ」。 私にはダウン症のきょうだいがいる。トランプ氏が発したその言葉は、トランプ氏が考えているような意味ではないと思っている。 どういうことかというと、その言葉の語源をたどってみると、15世紀のラテン語「retardare」から来ていることがわかる。retardareには「隠す」や「妨げる」などの意味がある。しかし、アメリカで暮らす知的障害がある700万人もの人たちは隠されることも、妨げられることも拒否してきたのだ。 支援を活用し、知的障害があってもアメリカで主流のK-12(幼稚園から高校まで)の学校に通うし、スポーツチームや地域コミュニティーの劇場、ダンスやアート教室、数学やチェスクラブなどではとても大切な一員になっている。 トランプ氏が発した「Rワード」は知的障害者たちの経験や能力について実際の姿を捉えたものではないが、それでもやっぱり耳にすると傷ついてしまう。 「ねえ、ニュース見た?」。ニューヨーク・タイムズがトランプ氏の発言を報じたのを目にし、きょうだいに電話して聞いてみた。 「見たよ。トランプはまちがってる」 大人になってから、彼がカリフォルニア州ベンチュラで夢を叶えるところを見てきた。知的障害がある人たちにスポーツトレーニングやその成果を発表する場を提供する「スペシャルオリンピックス」では、ありとあらゆるスポーツを体験した。仕事を持ち、YMCAの会員で、地元のピザ屋で毎週開かれる会合にも参加した。長年のパートナーがいて、地元のボランティア団体にも参加していた。 そのボランティア団体である時、仲間から「知恵遅れ」と呼ばれたことがあった。Rワードを使った人の頭に空手の蹴りを入れてやり返したらしい。もちろん暴力はいけないことだが、この場合は当然の反応だったように感じる。 現在、『ダウン症だと声を大にして言う:障害についての考えが変わる20+の物語』という本を執筆中なのだが、自分のきょうだいからいろいろ着想を得ている。きょうだい以外にも24人の知的障害がある人たちにもインタビューした。 その中で、スペシャルオリンピックスの「Spread the Word to End the Word」(言葉を広めて言葉を終わらせよう)というキャンペーンを知った。このキャンペーンでは、人気テレビドラマシリーズ『Glee』のジェーン・リンチさんとローレン・ポッターさん(ダウン症のチアリーダー役)が公共広告に出演し、「Rワード」を使わないように訴えかけた。 トランプ氏はこの公共広告を見ていなかったのだろう。 ダウン症のある人としてアメリカで最初にロビイストに登録され、全米ダウン症協会の草の根運動に取り組んでいるケイラ・マッキオンさんに、トランプ氏は会ったことがあるのだろうか。職業と医療における機会均等を求めて闘っているダウン症のシャーロット・ウッドワードさんのことは知っているのだろうか。ウッドワードさんは「臓器移植差別防止法」を成立させるため、下院議員らに精力的に協力している人物だ。 トランプ氏は、小さい子ども向けチャンネルの番組『ラウド・ハウス』を一度も見たことがないんだと思う。ダウン症の声優ジャレッド・コーザックさんは、同じくダウン症があるキャクターのC.J.役を完璧なものにするため、多くの時間をかけている。 ドラマ映画『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』は見たのだろうか。主人公を演じたザック・ゴッツァーゲンさんはダウン症の俳優として初めてアカデミー賞の授賞式でプレゼンターを務めたのだが。トランプ氏はそれも見ていないのだろう。 ゴッツァーゲンさんに先日会ったのだが、「トランプは意地悪で、みんなに対して尊敬を欠いている。大統領になってはいけない人だ」と言っていた。尊敬を欠く姿勢は、人々の基本的な人間らしさを軽んじることにつながることをゴッツァーゲンさんはわかっているのだ。 50歳超のダウン症のきょうだいや両親、友人がいる人たちは、かつて無知がどのようなものだったか身をもって知っている。 1975年にダウン症のきょうだいが生まれた時、医師たちは母に施設に入れることを勧めた。ちょうどその直前に、6000人超の知的障害者が入っていたニューヨークのウィローブルック州立学校について驚くべき暴露記事をジャーナリストのジェラルド・リベラさんが出したタイミングであったにも関わらず、だ。ロバート・F・ケネディ氏(第35代大統領を務めたジョン・F・ケネディ氏の弟)が1965年にこの学校を訪れた際、「不潔で汚く、ぼろ服を着ている」と発言したことが記録に残っている。 再びトランプ氏が大統領選挙に当選すれば、見た目などが少し大多数の人たちとは違う人々にとって残酷な暗黒時代に戻ることになるだろう。私のきょうだいがスーパーで子どもに握手をしようとしたところ、驚いた母親が「こんな人としゃべったらダメ」と子どもを勢いよく引き離した昔に逆戻りすることになるだろう。 アメリカの国立小児保健・人間発達研究所の試算によると、この国では子どもの2~3%に何らかの知的障害がある。つまり、200万人を軽く超える子どもたちが、この選挙の年に、「知恵遅れ」や「精神障害者」(トランプ氏が好むハリス氏の呼び方)という言葉を聞く危険にさらされている。 ありがたいことに、SNSが知的障害がある子どもや大人に存在感と声を上げるプラットフォームを提供している。そして、中傷ではなく、称賛を重んじるフォロワーたちをたくさん生み出している。 知的や発達障害がある人たちはこの40年間、目的に向かって取り組む自分たちを隠そうとしたり、妨げようとしたりする人たちに異論を唱えてきた。 少年野球リトルリーグでプレーできるように闘い、高校では大学進学クラスに入れるように抗い、舞台やスクリーン、首都ワシントンの「キャピトル・ヒル」で自分たちの違いを祝っている。 静かだが、優しさと思いやりにあふれた生活を送っている。トランプ氏にはできないことなんだろうと思う。 ◇ ◇ ◇ 筆者のメリッサ・ハート氏は、『Better with Books: 500 Diverse Books to Ignite Empathy and Encourage Self-Acceptance in Tweens and Teens』の著者。 ハフポストUS版の記事を翻訳、加筆しました。