俳優・前田公輝、”あらゆる犯罪者役を演じてきた”葛藤の先に…「素を見せたほうが”本物”に近くなる」
◆「“素”を見せて同じ足並みで作品を作ったほうが本物に近くなる気がする」
役とはいえど犯罪を犯したくなかったが、いつの間にかそうした善悪を含めた“人間”にハマっていく。またさらに新たな発見があり、『HiGH&LOW』では強い役ゆえに自分の弱さに気づいてしまう感覚を味わったり、一年間悪役が来ないと寧ろ不安になったりもした。 「自分の芽が出るところはヒールだと思っていたので、誠実で明るい役をやればやるほど、悪役じゃないから自分の魅力がしっかり伝わっていないんじゃないかという不安や葛藤と向き合わざるを得ませんでした」 犯罪者役が続いたからこそ、バラエティで見せる作品共演者との軽快な掛け合いや優しさが垣間見えるコメントには「前田公輝の素って、こんなに明るかったの?」と一般視聴者を引き込む要素となっている。なかでも、『山田裕貴のオールナイトニッポンX』にゲスト出演した際には、前田の素の魅力が爆発した名場面だと話題に。山田とカラオケデュエットしたほか、マスカラを振って盛り上げたり、合いの手を入れたり、楽しむ様子を隠さない両親ゆずりの陽キャな姿がユーザーに受け、ネットニュースや切り抜き動画がバズりにバズった。 「一時期はプライベートやドラマの打ち上げではクールな自分を演じていました。役者の世界に、バラエティなどではミステリアスな空気を出したほうが本物っぽいと言われていた時代はあったと思います。ですが今は皆さん、YouTubeなどをされている。役者ってふた通りいると思うんですけど、ミステリアスなゼロ地点から“1”を作る人と、ある程度の素を見せて“2”から役では“5”にする人がいるように思うんです。そして今は、後者のほうが安全だし見やすい存在になっているような気がなんとなくしているんです。つまり“素”を見せた同じ足並みで作品を作ったほうが本物に近くなる気がするんです」 昨今はラジオ、YouTubeをはじめとしたSNSで俳優たちが“素”の姿を見せる動きが加速度を増している。本来YouTubeやTikTokブームは、演者が芸能人ではないからこその親しみやすさがあったが、役柄のイメージも大切である俳優が自分のプライベートを明かす利点はあるのだろうか。 「多分、選択肢が増えることが大きいと思います。YouTubeでも、お笑いでも、カップルの日常でも恋愛ドキュメントでも、自分の“好きなもの”を選べるし、自分が何が好きなのかわかる時代です。自分の“好き”を出せることで、それが親しみにつながることもある。また“素”を見せることで、役者“なのに”歌えます。役者“なのに”踊れますというのがフラットに受け入れられ始めている。なんでもできる“全能の役者”が求められる時代にきているのかもしれません」 そんな彼の芝居には「息遣いや句点の打ち方に独自の感性がある」という反響も。画面を見ていなくとも、彼だとわかると間合いや緩急が感じられる。これを本人に直撃すると、「実はかなり考えています」とコメント。たとえ一言のセリフであっても、その言葉の背景や役としての解釈を4、5倍考えたうえで、圧縮して放っているからではないかと自己分析している。 現在はオンラインサロン「前田公輝officialファンクラブ『fan-ily』」でもファンと交流を持っている。ファンと身近に接触することで「戦う力になっている」と語る前田。 「自分自身がさまざまな活動をすることでさらに選択肢を増やしたい。一つのことに情熱を注ぐのも素敵なことですが、一つに縛られず、知らなかったことに向き合うことも楽しいもの。今の時代は特に、俳優でもいろんな色を自分が出すことで楽しめる世界があると僕は思っています」 (取材・文/衣輪晋一)